IT化の大波に埋もれ取り残される町工場。今後の日本のモノづくりを支えきれるのか

橋本愛喜

パソコンが不得手で、工場の書類をすべて手作業でチェックしていた筆者の父

 前回は、先代と次世代の経営者間で勃発する「意見の食い違い」について述べ、その中の一例として、3Dプリンタを引き合いに出したが、今回から数回に分けて、「次世代候補」だった筆者が工場で作業をしながら感じた「町工場のIT化の現状」や、「製造業界が今後直面する“機械化”の問題」などについて綴ってみたいと思う。

 今月11日に総務省が発表した平成28年度の個人企業経済調査によると、パソコンを事業で使用している製造業の事業所の割合は、全体の35.7%、さらにインターネットに接続したパソコンを使用している事業所は33.9%に過ぎないという。

 これでも10年前と比べると10%ほど増えてはいるのだが、ありとあらゆる場所やモノが電子化されている昨今において、この数字は決して高いとは言えない。

 60歳以上の製造事業主の割合が76%を超えている現状を考えると、やはり製造業界における個人企業のIT化の遅れにも、彼らの高齢化が関係していることが分かる。

 高齢の経営者が、工場にパソコンを導入しない最大の理由は、いわずもがな、パソコンに対する知識がないことにある。工場を経営していた筆者の両親も、例に違わず通信機器には相当疎かった。

 父が初めてパソコンに触れた時のことは、いまだに忘れられない。家にやってきた馬鹿デカいパソコンを前に、どうしてそうなるのか、画面を凝視しながらマウスを耳元へ持っていき「もしもし」し、中学生の筆者に「まだ電源入れとらんのか」と言い残して部屋を出る彼を見て、「自分がしっかりしなければ」と、本気で思った。

 一方の母は、新しいモノ好きではあるものの、進化するたびに多機能化していくパソコンに混乱し、むしろできることが少なくなっていく。

 本人なりに、独学で色々と試すのだが、「あいき(筆者の名前)、なんやまたパソコンの調子がおかしいねん」と言ってくる頃には、すでに「初期化」以外に修復する術がない状態にまでなっていることもしばしばである。

 そんな父の工場で発行されていた伝票は、案の定というべきか、最後までほとんどが手書きだった。納品書と請求書、受領書は、3枚写しのできるカーボン紙。見積書も手書きで作成した後、ファックスで得意先へ送信していた。

 かろうじてパソコンは1台あったのだが、病気で記憶障害を負った父に使い方は定着せず、母のパソコンスキルにも不安があったため、こういう中で社内の事務作業をIT化することは、筆者1人しか情報を把握できなくなることになり、結局、筆者のみが受け持っていた仕事以外では、パソコンが事務作業で機能することはほとんどなかった。

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町工場の経営者はほとんどがパソコンを知らない団塊の世代
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