不祥事続きの安倍政権にとどめを刺すのは、文在寅がほじくり返す慰安婦問題である

 文在寅氏が韓国の大統領に就任して以来、「従軍慰安婦」周辺の問題が騒がしい。  7月5日には、ソウル市が、朝鮮人慰安婦の存在を証明するという映像資料を公開した。今迄は写真や生存者の証言をその「証拠」としてきたが、今回は動画である。米国立公文書記録管理局に保管されていた18秒の動画を、ソウル大学の研究者が2年間の調査の末に発見したという。ちなみにその調査費はソウル市の予算である。  また10日には、韓国の鄭鉉栢(チョン・ヒョンベク)女性家族相は、旧日本軍の元従軍慰安婦の女性が共同生活する支援施設「ナヌムの家」を訪問し、「慰安婦問題の解決」を最優先課題にすると強調しながら、ソウル市内に「慰安婦博物館」を建設する方針を明らかにした。  また、新政権の国政の方向性と目標を定める「国政企画諮問委員会」は同日、8月14日を「慰安婦の日」に指定し、追悼事業や関連イベントを推進していくことを発表。さらには、昨年に続き、今年はアメリカ、中国など海外の記録・資料調査を拡大しながら、民間NGOが所蔵する資料を国家記録物に指定し、収集資料のシステム化を通じて、ユネスコ世界記録遺産登録を推進することを明言している。  韓国・文在寅大統領は、米国・ワシントンポスト紙のインタビューに対し「前政権が日本政府と結んだ慰安婦協定は、韓国人、特に被害者にとって受け入れられていない。彼らは合意に反対している。問題解決のために重要なことは、日本が法的責任を負うことと公式の謝罪を行うことだ」と述べ、慰安婦問題に対する強硬な姿勢を示している。

「慰安婦動画」の真実性、韓国の目論見

 ソウル市が公表した「慰安婦動画」。しかしその映像に対する懐疑的な意見があるのも事実だ。少なくとも、映像からは慰安婦に対する「強制性」は読み取れない。韓国側も映像を通じた「強制性」の証明には消極的で、「当時の慰安婦の悲惨さを決定づける重要資料」とする一方、どこまでも慰安婦の「存在の証明」としての資料だと話している。  知っての通り、「慰安婦問題」は長年にわたり、日韓関係の懸案事項となってきた。  2015年の日韓合意に基づき、安倍首相は「心からおわびと反省の気持ちを表明する」と当時の朴槿恵大統領に謝罪。さらに日本政府は、韓国政府が運用する元「慰安婦」支援基金に10億円を拠出した。「慰安婦問題」はようやく終息を迎えたかに見えた。  しかし韓国では、罷免にまで追い込まれた朴槿恵元大統領を引き摺り下ろす「恰好のネタ」としてこの日韓合意が引き合いに出された。もともと経済格差の拡大や就職難によって、韓国では特に20代から30代の若年層で朴政権に対する不満の声が強い。これに対し野党が「当事者の声を無視した日韓合意」として批判を拡大し、若年層がどんどん野党勢力に取り込まれた。結果的に野党側は「日韓合意の再協議」を公約として掲げ、しまいには「韓国政府」ではなく、「朴槿恵」が勝手に合意したことという新たな主張まで出始めている。  元「慰安婦」のリ・ヨンソさん(88)はBBCの取材に対し「犠牲者のことが本当に考慮されて協議が持たれたのか分からない。お金が欲しいのではない。もし日本人が罪を犯したのなら、直接賠償金を支払うと提案すべきだ」との話したことも韓国報道では大きく取り上げられた。  韓国には、慰安婦問題を国際的にアピールして、「日韓の問題」ではなく、「国際問題」として扱いたい背景がある。日本側は「最終的かつ不可逆的な解決」で合意したとして、「完全に解決済み」という立場を崩していない。日本との対話ではらちがあかないとみた韓国側は「慰安婦問題は日韓ではなく、人権を扱う国際問題」として世界にアピールし始めた。
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「慰安婦問題」を「解決済み」とするリスク
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