地球温暖化を防止するためのパリ条約では、日本、欧州など主な排出国はCO2の総量を減らす削減目標を出している。これに対して中国はどうか。
中国のCO2の削減目標はGDP当たりの排出量の削減である。これは根本的に意味が違う。経済成長に伴って排出量が増えることを許容して、何ら痛みを伴わない。中国は世界最大のCO2排出国であるにもかかわらず、果たしてこれで国際的な責任を果たしていると言えるだろうか。
それにも拘らず、中国は国際的に批判されてはいない。それどころか米国がパリ条約からの脱退を宣言したことから、米国が国際的に批判を受け、孤立している。これに対して中国は平然と地球温暖化に前向きな振る舞いで欧州と協調している。まさにしたたかに立ち回っているのだ。
こうしていずれも中国は国際的な批判の矢面に立つことなく、“中国問題”は米国と欧州の対立の構図の中にかき消されている。
欧州と米国の間の亀裂は決して日本にとって望ましい状況ではない。しかし安倍総理が橋渡し役を果たせるような生易しい溝でもない。
その結果が欧州と中国の接近が起こっている。これは日本がもっとも警戒すべき事態だ。
AIIBの設立にも見られるように、日米欧を分断する作戦は中国の伝統的な「孫子の兵法」だ。また欧州は中国にとって先端技術の入手先として欧州は絶好のパートナーだ。特にドイツ企業の中国への食い込み方は各産業分野で顕著だ。欧州にとっても地理的に遠い中国は元来、自らの安全保障上の懸念を持つべき対象ではないことも背景にある。日本にとっては安全保障上見過ごせない問題だ。中国から見れば、兵法三十六計の「遠交近攻」ということにも通じる。
こうした状況で、日本としては少なくとも経済面では欧州を繋ぎ止めておくことが必要だろう。先般大枠合意した日欧EPAはそうした戦略的な視点からも見るべきだろう。
【細川昌彦】
中部大学特任教授。元・経済産業省。米州課長、中部経済産業局長などを歴任し、自動車輸出など対米通商交渉の最前線に立った。著書に『
メガ・リージョンの攻防』(東洋経済新報社)
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