華も人気もある後輩がねたましい――石原壮一郎の【名言に訊け】~高倉健の巻~
2014.11.29
Q:つまらない悩みと笑われそうですが、毎日そのことでイライラさせられています。部署にいる30代は、自分と後輩のAのふたり。Aは明るくソツがないタイプで、社内でも人気者です。いっしょに研修などに行っても、Aは初対面の相手とすぐ打ち解けて知り合いを増やしますが、私はそういうのは苦手です。華も人気もあるAが目障りで仕方ありません。仕事ではけっして負けていないつもりです。なのに、なぜAばかりがチヤホヤされて、自分はそうじゃないのか。はっきり言って、ねたんでいます。(北海道・36歳・経理)
A:おやまあ、辛気臭い相談が来ましたね。今ちょうど、町内でいちばん粋でイナセと言われている大工の棟梁と、高倉健さんのDVDをいっしょに観ていたところなんですけど、ちょっと再生を停止して答えてもらいましょう。
「なんだよ、いいとこなのに。ん? なになに……。とんだ唐変木野郎だな! だけどなんだ、本人も『つまらない悩み』だってわかってやがるみたいだから、ひと肌脱いでやるか。俺はひと肌脱いでも、昭和残侠伝の健さんみたく背中に唐獅子牡丹はいねえけどな。
ウチの弟子にも、いろんなのがいるぜ。性格は人それぞれだから、明るかろうが暗かろうが、俺はそんなことでそいつを評価したりはしねえけどよ。おめえのまわりだって、おめえを嫌ってるわけじゃねえだろ。……いや、嫌ってるかもしれねえなあ。下らねえ理由で後輩をねたんでウジウジしてるようなヤツと、話してて楽しいわけねえもんな。
これ以上おめえが下らねえヤツにならないように、いいこと教えてやるよ。健さんが『南極のペンギン』っていうエッセイの本に書いてた言葉だ。目ひんむいて、読みやがれ!
【僕の仕事は俳優だから、よくひとから拍手される。でも、拍手されるより、拍手するほうが、ずっと心がゆたかになる】
わかるか、えー! Aのいいとこを素直に認めて、拍手してやんな。心の中だけでもいいし、口に出して「Aはすごいなあ」って言えたら、もっといいと思うぜ。Aは華があって人気者かもしれねえけど、それをねたむ必要はねえし、張り合って無理して明るく振る舞う必要もねえ。おめえはおめえの道をまっつぐ進んでけばいいんだよ。
おめえは勝手にAに負けてると思っているみてえだけど、まあ、あえて勝ち負けで言ったら負けてるんだろうけど、勝った気になれるたったひとつの方法が、Aに拍手を送ることさ。そうすりゃあ、おめえの濁った性根も少しはきれいになるだろうよ。
おめえだけじゃなくて、目障りなヤツに向かって拍手することで救われるヤツは多そうだな。このぐらいでいいかい。健さんの映画の続きを見させてもらうぜ。あばよ。」
私たちは嫌いだのねたましいだのといった厄介な感情に、しょっちゅう振り回されます。そんなときは、その相手に対して無理に拍手を送ってしまいましょう。きっと邪悪な感情が安らいで、気持ちの余裕も生まれてくるはず。健さんの言葉をかなり拡大解釈していますが、いろんなことを学ばせてくれるところに、この言葉の奥深さがあると言えます。
【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。
いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
【今回の大人メソッド】嫌いな相手やねたましい相手には、無理に拍手を送ってみる
『南極のペンギン』 さまざまな体験から汲み取ったことを、子どものために書き記したという表題作の「南極のペンギン」、「アフリカの少年」、そして「沖縄の運動会」など、10のエピソードがつづられている |
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