「遺伝子組換え作物は危険」というデータは、不正確なものだった
いまもネットで議論が絶えないのが、「遺伝子組み換え作物」の問題です。
遺伝子組み換えとは、ある生き物から役に立つ遺伝子だけを取り出し、別の生き物に組み込んでいく技術のこと。日本では、大豆食品やスナック菓子などに、大量の遺伝子組み換え作物が使われています。
その安全性については昔から否定論が多く、ネットで検索をかければ「遺伝子組換え作物を食べて奇形化したラット」の哀れな画像が大量にヒット。思わず身ぶるいさせられます。
さらに2015年には、台湾政府が給食から遺伝子組換え作物の完全排除を決めたのも話題になりました。遺伝子組み換えの安全性には科学的な合意がなく、毒性の強い農薬が大量に使われているというのです。
事実ならば恐怖の一言ですが、遺伝子組換え作物への批判は、どこまで的を射たものなのでしょう? 本当に科学的な根拠はあるのでしょうか?
まずは、遺伝子組み換え食品で奇形化したラットの問題から見ていきましょう。
ネットに出回る奇形ラットの画像は、2012年の動物実験が出どころになっています(1)。カーン大学の研究チームが、ラットに遺伝子組換えのコーンを食べさせたところ、次々に悪性の腫瘍が発生したという恐ろしいデータです。体の節々がふくれあがったラットの姿はあまりにも悲惨で、遺伝子組換えの否定派が大騒ぎしたものムリはありません。
ところが、この論文には、発表後から「実験のデザインがおかしい」という指摘が多く上がりました。
この実験の問題点は、大きく2つあります。第一に、遺伝子組み換え食品を与えたラットの数は20匹程度であり、とても統計的な検証に耐えうる数ではありません。
さらに大きな問題が、この実験ではアルビノラットを使っている点です。アルビノラットはもともと癌になりやすい生き物で、あるデータによれば、18カ月の間に自然に腫瘍ができる確率は45%にものぼります(2)。
これらのポイントが指摘されたため、カーン大学は後に論文を撤回し、いまも再提出は行われていません。論文としての妥当性は失われたと見てよいでしょう。