長征五号ロケット(写真は昨年11月の1号機のもの) Image Credit: CALT
今回の打ち上げ失敗により、ロケットに搭載されていた人工衛星「実践十八号」も失われることになった。
実践十八号は、次世代の通信衛星などに使うための、新しい技術の試験を行うことを目的に開発された。最大の特長は、「東方紅五号」という新開発の”衛星バス”を使って開発されたことにある。
東方紅五号の想像図 Image Credit: CAST
衛星バスというのは、太陽電池やエンジンなどの基本的な機能が組み込まれた、衛星を形づくる筐体のようなもののことで、あらかじめ量産できるようにしておき、そこへ目的に応じて必要となる通信装置や観測装置などを載せて、ひとつの衛星を造る。これにより、部品や製造工程をある程度共通化できるので、製造の効率化による納期の短縮や低コスト化が図れる。こうした衛星バス、あるいは共通バスと呼ばれるものは、中国はもちろん、すでに世界中の衛星メーカーが採用している。
この東方紅五号は、衛星バスとしては世界最大で、最大9トンの衛星まで造ることができる。今回の実践十八号も約8トンと、きわめて大きい。東方紅五号のような、静止軌道と呼ばれる軌道へ打ち上げられる静止衛星は、軍事衛星などの特殊な例を除けば7トンほどが世界最大級と呼ばれており、実践十八号の8トンは世界で最も重い。衛星が大きければその分、通信や観測に使う装置をたくさん積むことができ、たとえばこれまで2機の衛星が必要だったことが、1機の衛星で可能になる。
また実践十八号には、機密性の高い量子通信の実験装置や、大容量の通信ができる装置、また燃費がよく衛星の運用期間を伸ばせる電気推進エンジンといった、さまざまな新しい装置も搭載されており、宇宙で試験が行われる予定だった。このうち電気推進エンジンや大容量の通信装置は、程度の差はあれど他国の衛星でも数多く採用されており、さして珍しいものではないが、衛星による量子通信を実用化しているのは今のところ中国だけである。
こうした、世界最大かつ、世界最先端の技術を載せていた実践十八号だが、長征五号の打ち上げ失敗により、すべて失われることになった。ただもちろん、開発や製造の技術まで失われたわけではないため、依然として中国がこれらの分野において、世界でもトップレベルの技術をもち続けていることには変わりはない。