藤井聡太四段の快進撃を支えた、母のまなざし 口を出さずに、見守るだけ

将棋の有段者が一人もいない藤井家

 まず一つ目に押さえておきたいのは、藤井家には将棋の有段者が一人もいないということだ。藤井四段を除き、全員辛うじて駒の動きがわかる程度だ。ここで重要となるのが、母・裕子さんの存在だ。きちんと本人に聞いたことはないが、裕子さんの愛読書は間違いなく「月刊将棋世界」である。  彼女は現在将棋界で誰がタイトル戦に登場して何勝何敗か、今年C級1組からB級2組に昇格した人の師匠が誰で、最近四段としてプロデビューした人の出身地と最終学歴はどうなっているか、すべて把握している。  そのうえで裕子さんが素晴らしいのは、息子の将棋に一切口を出さないということだ。もちろん、もはやプロなのだから素人に口を出せない領域だというのはあろう。しかし、世の中にはアマチュアの親がプロの子供に余計な口を挟む事例があまりにも多い。  象徴的な場面を一つ思い出す。2015年末に一度、筆者は藤井親子に拙宅へ泊まってもらったことがある。  その際に昼食を共にして、これから藤井聡太はプロ棋士三人と筆者の家で対局という流れになっていたが、筆者が「対局中、お母さんはどうします?」と聞いたのだ。 「せっかくの東京ですし、上野と浅草も近いですから、少し観光しようかと思います」とのことだった。  しかし、裕子さんは観光に行くことはなかった。我が家は狭く、客人全員に椅子を用意できないくらいだが、彼女は階段に腰かけ、まばたきすらせずに対局する息子の背中を見つめていたのだ。  もう一度繰り返すが、藤井聡太を除いて藤井家に将棋の有段者はいない。だから、あのとき裕子さんが「今日はプロ同士の腰掛け銀のねじり合いが見たい」とか「矢倉対振り飛車穴熊のなんとかかんとか」と考えていたことは絶対にありえない。そして何気なく彼女の視線の先を見ると、そこに将棋盤はなく、あくまでも対局に集中する息子の背中に集中していた。そのときに筆者は悟ったのだ。ああ、この母親の眼差しこそが彼の強さなのだと。 <文・タカ大丸> 【タカ大丸】  ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)は12万部を突破。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。公式サイト
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
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