「経済成長という幻想」に人類は滅ぼされる?

「経済成長という幻想こそ諸悪の根源」と警告。「脱成長」を掲げ、『経済学が世界を殺す』を上梓した資源・環境ジャーナリストの主張が話題だ。経済成長が限界に達した今だからこそ、これからは資源や環境に配慮した「持続可能な発展」を目指す企業が買いになる!? ●資源・環境ジャーナリスト 谷口正次氏
谷口正次氏

谷口正次氏

資源と環境への依存で成り立つ成長はもう限界

――谷口さんは、今まで通りの経済成長には限界があるとして「脱成長」を主張されています。私たちの発展にとって、経済成長は不可欠なものではないのですか? 谷口:もともと私は、資源・環境ジャーナリストとして、天然資源を産出している発展途上国の開発現場を見てきました。そこで、欧米の多国籍企業が、自国の法律による規制を受けないのをいいことに、途上国の資源を収奪して、環境を破壊している現状を目の当たりにしたんです。さらに、現地の労働力を奴隷のように安く使い、人権を抑圧し、先住民の伝統文化を破壊し、政府の腐敗が横行していた。そのとき、私たちの経済成長は、資源や環境といったよその国の「自然資本」に依存して成り立っていることに気付いたんです。 ――私たちの経済成長には、途上国の多大な犠牲が払われていると? 谷口:ええ。化石燃料や鉱物資源、そして熱帯雨林や水、きれいな海洋環境などのおかげで、私たち人類は豊かな生活を享受しています。こうした資源や環境は、人類全体にとって共通の大事な「資本(ストック)」のはずなのに、それらを単なる「所得(フロー)」として食いつぶしているのが現状です。本来なら、こうした「自然資本」をきちんと産出国の包括的な「富」としてバランスシートにも組み込み、資源の消耗や環境の破壊を金銭換算して、国際取引価格に反映させるべきでしょう。ところが、今の主流派経済学では、その価値の損失を「経済外部性」として無視しているんです。それを提言するまともな経済学者があまりに少ないし、いても排除されてしまいます。 ――なぜ、そういった良心的な経済学者は排除されてしまうのですか? 谷口:世界銀行などの国際金融機関やウォールストリート、政治家や富裕層といった経済界における支配者層は、今まで通りの既得権益を守りたいからですよ。だから、彼らにとって都合のいい経済学だけが幅を利かせ、経済成長を続けないと国が存続できないとか、人々が幸せになれないといったウソを吹聴しているんです。そのため、企業はイノベーションと称して次から次へと新しい商品をバージョンアップさせて無駄なものを作るし、広告代理店は暴力的なコマーシャリズムによって無駄なものを売ろうと過剰消費を煽ります。そうやって私たち一般消費者は、知らず知らず「自然資本」を食いつぶす加害者になることに荷担させられている。何の罪の意識もないまま、人類の破滅に一役買っているんです。企業で資本が底をついたら破産なのに。 ――え、「人類の破滅」なんて、そんな大げさな話になり得るんですか? 谷口:そうですよ。今、人口爆発が大きな問題となっています。世界の総人口は現在73億人を超え、2045年には90億人に達すると予測されている。一説によると、それ以上人口が増加すると、地球の生態系全体を急速に変化させる閾値を超えてしまうと言われています。それでなくても、今でさえ世界の資源消費量は年間640億トン。資源や環境は有限なのに、このまま人口が増大しても経済成長を続けようとすれば、どうなりますか? ――間違いなく、天然資源は枯渇してしまいますよね……。 谷口:特に日本は、資源の輸入依存度が世界でも突出している。輸入資源の自国資源に対する金額的割合は、実に85・7%を占めます。輸入資源は石油、天然ガス、石炭、鉄鉱石、レアメタルなど、採掘すれば必ず環境を破壊するものばかり。日本は、よその国の自然資本を食いつぶすことで経済大国になれたことを忘れてはいけません。成長の恐ろしさを知るべきです。それに、このままの産業構造で経済成長を続けていると、社会的な損失も深刻になっていくでしょう。

“非主流派”によるエコノミズム批判

エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハー (イギリス、経済学者・1911~1977年) 現代経済学の方法論を、「カネで表した価格によってすべてのものを同一化し、数量化するものである以上、再生可能の物質と再生不能の物質を区別しない」とし、希少な天然資源を軽率に浪費していることを戒めた ハーマン・デイリー (アメリカ、エコロジー経済学者・1938年~) 経済学の実践によって、「地球の持続可能な再生力を超えて資源を消費し、したがって、この能力を長期的に衰えさせている」ことを指摘。「それを所得と呼んでいる間は自然資本を消費し続けている」として批判した セルジュ・ラトゥーシュ (フランス、経済哲学・1940年~) 「脱成長の道は、経済成長という名の宗教からの脱却の道である。経済に対する信仰を放棄し、消費という儀式と貨幣というカルトを断念しなければならない」と喝破し、経済中心主義・経済至上主義に警鐘を鳴らした クライブ・ポンティング (イギリス、歴史家・1946年~) 古典派経済学は資源枯渇の問題を無視していると指摘。「人間のもっとも合理的な行動は目前の自己利益を追うことにあり、遠い将来のことを考える必要などはない」という考えは、まったく不条理なものであると批判した ハ・ジュン・チャン (イギリス、ケンブリッジ大学准教授・1963年~) 新自由主義に基づいた経済学を、「もはや社会科学ではなく、中世ヨーロッパにおける神学のような立場」「現状を正当化するためのイデオロギー」であるとし、単に現実の追認にすぎないと批判。反自由市場主義を掲げた 取材・文/福田フクスケ 撮影/武田敏将
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