保守党大敗の英国総選挙。「歩く屍」と英紙で酷評されたメイ首相の行く末

後任として名が挙がるのはあの男

 首相の立場が党内で盤石でない状態で、EUとのBrexitの交渉に臨むことは危険で、党内で交渉内容に意見が分かれる可能性は充分にある。しかも、彼女が主張しているHard Brexitを交渉の席で押し通すのは現状の保守党の過半数に満たない状態では尚更不可能である。  しかも、Brexit が撤回されない限り、2019年3月29日には英国はEUから離脱することが決まっている。それまでに英国とEUとで<759の合意>が必要だとされている。その為の交渉には英国民を説得できるだけの安定した政権が必要であるが、今回の総選挙でその政権は姿を消してしまった。(参照:「El Confidencial」)  一部閣僚の間でもメイ首相に対し、今後も彼女を支持して行くには<Brexit を最も柔軟性を持たせたものに変えるように>という条件を出しているそうだ。その一人は経済相のフィリップ・ハモンドである。(参照:「RTVE」)  その一方で、メイ首相の後任が誰に成るかという話題も生まれている。その最右翼はボリス・ジョンソン外相である。彼は常にキャメロン首相のライバルとされていた。ジョンソン外相は<100%メイ首相を支持して行くこと>を既に表明している。  今回の英国総選挙の結果、英国とEUの交渉開始及び離脱日を遅らせる必要があるという意見も生まれている。それにはEU27か国と英国とで、その為の事前の合意が必要とされる。しかし、北アイルランドの民主統一党(DUP)の議席を合わせて過半数を満たすような英国政府ではEUとの厳しい交渉に臨むことは不可能である。仮に交渉の席についても、その交渉内容が英国議会で承認されない可能性は十分にある。

若者の支持に欠ける保守党

 恐らく、保守党内でメイ首相が辞任して、後任首相に誰かが決まっても、コービン党首が指摘しているように、新たに総選挙が必要であろう。極端に言えば安定政権が誕生するまで総選挙を繰り返して行かねばならないかもしれない。  今回の総選挙で労働党は35歳未満の有権者から圧倒的に票を獲得している。その極端な例は<18-24歳の若者の間では57%が労働党に票を入れ、保守党には僅かに18%しか投票してしていない>のである。(参照:「El Confidencial」 これが意味するのは、多くの若者はBrexit を望んでいないのである。仮に、望んでいたとしても、それは柔軟性を持ったSoft Brexit であって、メイ首相が唱えるようなHard Brexit ではないということである。  Brexitが決まった国民投票の「Leave」 と「Remain」の差は僅かに83万票であった。「Leave」が勝利した要因は、「Remain」を圧倒的に支持する多くの若者が投票しなかったことが理由になっていることは公然の事実となっている。この若者の存在を無視しての総選挙での勝利はあり得ないのである。その意味で、メイ首相がHard Brexitを主張する限り、保守党の圧倒的な勝利はあり得ないのである。 <文/白石和幸 photo by Policy Exchange via flickr (CC BY 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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