ラモスの発言を証明するかのように、米国電子紙『El Diario NY』が5月22日付で、米国税関・国境取締局(CBP)が50ページに亘る報告書から<2015年10月から2016年9月までの統計で5040万人が空港又は港から入国し、その内の739478人が一時入国ビザの有効期限が切れた後も米国に残留したと発表した>ことを報じた。(参照:「
El Diario」)
この発表に、国家安全保障省(DHS)が説明を加えて、その残留者の中の<110679人はビザの有効期限が切れた後に米国を離れた>と同省は想定していることを明らかにした。そして、残り<628799人が結局不法移民として米国内に留まっている>としている。
更に同紙は飛行機か船で米国にF、M、I、B1、B2といった一時入国ビザで入国して、その有効期限が切れた後も在住を続けているメキシコ人は300万人と少々いると指摘したのである。現在、米国にはPew Search Centerによるとメキシコの不法移民は<2014年統計で580万人>と推定されている。即ち、ホルへ・ラモスがトランプの前で指摘したように、不法移民のほぼ半数が空港か港から米国に入国しているということを実証しているのである。(参照:「
Univision」)
また『
Televisa News』によると、現在存在している両国の間にある1000㎞の壁を越えて密入国した者は<2010年から2015年の間で僅かに9287人>だというのである。この実態を踏まえれば、壁を建設する意義があるのかを問うことになるのは当然の流れだ。
それでも、敢えて壁を建設したいとするのはトランプ大統領が「政治シンボル」としてそれを歴史上の記念として残しておきたいのかもしれない。
NATOの5月25日首脳会議でトランプ大統領がモンテネグロのマルコビッチ首相を片手で後へ払って自分を正面に移動させた行為は世界のリーダー国の大統領として恥ずかしい行動であるとして世界中から非難された。それを平気でできるトランプの知能は正に物事が識別できない子供のレベル。そうであるが故に、メキシコとの国境の壁の建設もそれが意味のないものであることなど理解不能なのであろう。彼の存在を示そうとする政治シンボルとしか思えない。それを容認すればその無駄使いのつけは米国市民が背負うことになる。
<文/白石和幸 photo by
Gage Skidmore via flickr(CC BY-SA 2.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。