常に英国の都合に翻弄されてきた、アイルランド国境の人々

デリー市街の中心地を囲む城郭の門

デリー市街の中心地を囲む城郭の門。かつてはここに扉がつけられ、鍵がかけられていた

 EU離脱に揺れる英国。しかし揺れているのは英国だけではない。特に、陸地で国境を接するアイルランド(1973年にEU加盟、ユーロ導入)への影響は甚大だ。日本ではほとんど報じられることのないその現場をリポートする。

日常生活の中に浸食していた英国とアイルランドとの戦争

 英領北アイルランドとアイルランド共和国との国境の街・デリー(ロンドンデリー)。市街中心部にある城郭の上に登ると、眼下にはカトリック教徒が集まって住んでいる下町が広がる。隣接するアイルランド共和国ドネゴール郡で年金暮らしを営むエンリ・マッケイは、そこで生まれた。1kmほど先に見えるカトリック教会の尖塔を指差して、自身の生い立ちを語り出した。 「私はあの教会のすぐ目の前で生まれました。周りもみんなカトリック。神父の話を聞いて育った私がやはり神父になるのは、自然なことでした」。学校もカトリックとプロテスタントで分かれている。「そうやって、私たちは子どもの頃から自然に分かれてしまっていたんです」  普段の生活に、戦争が侵食していった記憶が彼にもある。 「ある夜家路を急いでいたら、闇の中で突然何かにつまずいたんです。なんだろうと思ったら、地に伏せて銃を構えた兵士でした。銃撃戦の音が聞こえ、息を飲んで逃げるように帰ったことを今でも覚えています」
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今も残る「抗争」の爪痕
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