謎に包まれた米空軍のスペース・シャトル「X-37B」と、エスカレートする宇宙の軍事利用

勢いを増す宇宙の軍事利用

帰還したX-37Bに群がる作業員たち。軌道や姿勢を変える小型エンジンに、毒性のある燃料を使っているため、それを抜き取るまでは防護服を着て近づかなくてはならない Image Credit: U.S. Air Force

 米空軍がX-37Bを通じてなにをやろうとしているのかは、今後も注意して見守る必要がある。もしX-37Bを通じて、これまでにないような宇宙の軍事利用を、あるいはそのための基礎的な技術開発をおこなっているのであれば、それは将来的に、世界の平和と宇宙の安全にとって脅威になりうる。  宇宙の軍事利用、というのは難しいところで、たとえば人工衛星で敵の軍事基地を監視したり、ミサイルの発射を探知したりといったことも軍事利用だが、それらは基本的に問題視されることはない。  明確に問題があるのは、宇宙条約で禁止されている核兵器などの大量破壊兵器の配備である。ただ、大量破壊兵器ではない兵器の配備に関してはその限りではなく、これまでにも宇宙用の機関砲やレーザー砲が打ち上げられ、機関砲については発射試験もおこなわれている。またミサイルで人工衛星を破壊する衛星破壊兵器の実験も、これまで米国やソ連、中国がおこなっている。  これまで、宇宙兵器が実際に他の衛星を攻撃したり、衛星破壊兵器が他国の衛星を破壊した例はない。しかし、それは単に自粛されていただけであり、今後も起こらないとは限らない。  2015年には、ロシア軍の人工衛星が、米国の民間企業が運用する通信衛星に異常接近したことが知られている。目的は明らかになっていないが、通信を盗聴していたのではと推測されている。このときは通信衛星の側に被害が出たわけではないものの、いずれは盗聴にとどまらず、体当たりなりハッキングなり、なんらかの形での攻撃を受ける可能性も十分にあると思わせられる出来事だった。  また近年、ロシアや中国が新型の衛星破壊兵器の発射試験をしたとも伝えられており、そして米国防総省も、衛星を物理的・電子的な攻撃から守る対策に始まり、逆に攻撃する兵器の開発や方針の策定も進めることを明らかにするなど、宇宙が戦場になる危険性は高まりつつある。  X-37Bがその中でどのような役割を果たすかはわからないが、この機体がもつ「再使用できる宇宙の実験室」という特長を活かさないという手はないだろう。たとえば新開発の技術や材料を、X-37Bに載せて宇宙で試験し、地球に持ち帰ってさらに改良を加えるなどし、いずれ宇宙兵器に応用する、といった展開は十分に考えられる。また、X-37Bの技術をいかし、より大型、あるいは高性能な機体が開発されれば、他国の衛星をなんらかの形で攻撃したり、あるいは捕獲して持ち帰るなどといったミッションもおこなえるだろう。  米空軍は今回のX-37Bの帰還後、今年の末にも通算5回目となるミッションをおこなうと明らかにしている。X-37Bの打ち上げ、運用コストは決して安価ではないはずだが、それでもなんども繰り返し宇宙へ打ち上げられているということは、それに見合うだけの価値や成果が得られているということなのだろう。  はたして米空軍は、X-37Bが飛ぶ先に、いったいなにを見ているのだろうか。 <文/鳥嶋真也> とりしま・しんや●作家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。 Webサイト: http://kosmograd.info/ Twitter: @Kosmograd_Info 【参考】 ・X-37B Orbital Test Vehicle-4 lands at Kennedy Space Center > U.S. Air Force > Article Display(http://www.af.mil/News/Article-Display/Article/1175402/x-37b-orbital-test-vehicle-4-lands-at-kennedy-space-center/) ・X-37B Orbital Test Vehicle > U.S. Air Force > Fact Sheet Display(http://www.af.mil/About-Us/Fact-Sheets/Display/Article/104539/x-37b-orbital-test-vehicle/) ・NASA Test Materials to Fly on Air Force Space Plane | NASA(https://www.nasa.gov/press-release/nasa-test-materials-to-fly-on-air-force-space-plane) ・Aerojet Rocketdyne’s Modified XR-5 Hall Thruster Demonstrates Successful On-Orbit Operation | Aerojet Rocketdyne(http://www.rocket.com/article/aerojet-rocketdyne%E2%80%99s-modified-xr-5-hall-thruster-demonstrates-successful-orbit-operation) ・X-37B Orbital Test Vehicle(http://www.globalsecurity.org/space/systems/x-37b.htm
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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