『ダメおやじ』と高度経済成長期の狂気――古谷三敏インタビュー【あのサラリーマン漫画をもう一度】

「BARレモンハート」でインタビューに答える古谷先生

 忘れられないあの漫画。そこに描かれたサラリーマンは、我々に何を残してくれたのか。「働き方改革」が問われる今だからこそ、過去のサラリーマン像をもう一度見つめなおして、何かを学び取りたい。現役サラリーマンにして、週刊SPA!でサラリーマン漫画時評を連載中のライター・真実一郎氏が、サラリーマン漫画の作者に当時の連載秘話を聞く連載企画。  第3回目に取り上げるのは、1970年代に社会現象にまでなった過激な少年漫画『ダメおやじ』。家庭でも会社でもサディスティックに虐待される史上最弱のダメ人間は、当時の子供たちに強烈なトラウマを残し、日本人のサラリーマン観に大きな影響を及ぼした。  著者である古谷三敏先生は、1936年生まれの戦中派。焼け跡から高度経済成長期とバブルを経て現在に至る日本の盛衰を、漫画を通して見つめ続けてきた一人だ。そんな古谷先生に、『ダメおやじ』から『BARレモンハート』に至る創作の裏話を、お孫さんがバーテンダーとして腕を振るう「BARレモンハート」で伺った。

『ダメおやじ』がいきなり少年サンデーの人気トップに

――僕は子供の頃に『ダメおやじ』を読んで、会社ってこういうシビアな場所なんだなって思ってました。「サラリーマン=ダメおやじ」というイメージだったんです。 古谷:「地震・雷・火事・おやじ」という言葉があったけれど、当時はおやじの権威がまだ残っていて、でもそれが失墜しはじめているかも、というのは何となく感じていたんです。だから、家の中で子供にまでバカにされるお父さんの漫画を描こうと思った。最初は家庭漫画として考えたけど、副編集長から「どうせなら会社でもいじめられることにしたら」というアドバイスをもらって、それは面白いということで、主人公をサラリーマンにしたんです。僕はサラリーマンの経験は無かったけれど、当時はお父さんの50%以上はサラリーマンでしたからね。 ――サラリーマンが主人公の少年漫画って、当時としてはかなり珍しいですよね。 古谷:少年雑誌だから、主人公を大人にするのはどうなのか、とは思いました。みんな子どもが主人公だったから。でも、もともと赤塚不二夫先生と違う漫画を描かなきゃいけないというのがあったから。先生は少年漫画で明るい笑いだから、僕はダークな感じの笑いを目指した。感覚的にも江戸川乱歩とか怪奇小説を読むのがすごく好きだったし。先生よりちょっと大人っぽい漫画を描けば違う方向に行けるのでは、と意図的に考えてましたね。
次のページ
「古谷さん、僕はこの漫画嫌いです」
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会