こうした声に対して、トランプ大統領は、いつもの如く飽きることのないツイッターで<壁の建設は米国に麻薬を侵入させず、そして若者を麻薬から守る為のとても重要な手段である>というメッセージを送っている。(参照:「
Mundo Hispanico」)
トランプは、まず壁の建設に取り掛かれるように14億ドル(1540億円)の議会での承認を要求しているのである。民主党の議員は健康保険システム維持の為の予算を削って、それを壁の建設に充てようとする姿勢に反対を表明している。そして共和党のテキサス州の議員は全員が建設に反対している。テキサス州の経済はメキシコに大きく依存しているからである。
また、建設反対を和らげるべく、トランプ大統領は何れメキシコ政府が建設費を負担するようになると述べている。それに対して、メキシコのペーニャ・ニエト大統領は断固その支払いを否定している。
壁の建設に必要なセメントについては、メキシコで最大のセメント企業Cemexが<150億ドル(1兆6500億円)以上のビジネスになる>と見込んで建設参加に関心を示していたが、最終的にそれを辞退した。その背後には、カトリック教会までが<この建設に関心を示すメキシコの企業は祖国を裏切る者だと見做す>という姿勢を明確にしたからである。カトリック教会の姿勢に背いてまで壁の建設に参加するほどの無謀を犯そうとするメキシコの企業は皆無である。また、カトリック教会はメキシコ政府が断固とした姿勢に欠けることも指摘している。(参照:「
Sin Embargo」、「
同」)。
また、カリフォルニア州では民主党の議員が企業への通告として<壁の建設に参加する企業は今後、州政府の公共事業の工事の受注の際に支援しない>と広報した。(参照:「
Sin Embargo」)
現在、壁の建設費用は総額216億ドル(2兆4000億円)と見積もられている。国土安全保障省のジョン・ケリー長官は<優先的に必要な箇所から始めて、最終的に2年で完成させたい>と述べている。(参照:「
Viva Noticias」)
トランプが大統領戦のキャンペーン中に米国のスペイン語放送「Univision」の記者が、彼に<不法移民の40%は国境を通過しての入国ではなく、空港からの入国である>ことを指摘したが、トランプ大統領は今になってもそれを信じることが出来ないようである。
メキシコと米国が本来協力して両国の発展を図るべきであるのに、トランプ大統領は逆にそれを引き裂こうとしている。その為に216億ドルという巨額を費やすのは正に暴挙としか言いようがない。
<文/白石和幸 photo by flunkey0 via Pixabay(CC0 Public Domain)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。