こういった現象が起きるのは、そもそも人間の脳は、マルチタスクができない仕組みになっているからです。
作業と関係がないBGMを聞くと、私たちの脳は音のほうにリソースを割いてしまい、結果として作業の効率は低下します。これは、専門的には「無関連音効果」と呼ばれる状態で、
いろんなアプリを起動したせいでCPUの処理力が下がったようなもの。人間の脳にとって、BGMは負荷が重すぎるのです。
最後に、ダメ押しで2011年に独ケムニッツ工科大学が発表したメタ分析も紹介しましょう(3)。これは、過去に行われた数100件のBGM研究から、信頼性の高いデータを選んで大きな結論を出したものです。
「過去の研究データをまとめると、BGMは文章を読むプロセスをさまたげ、記憶力も下げてしまうようだ。一方で、BGMは感情面やスポーツの能力には良い影響をもたらすだろう」
BGMは知的な作業には悪影響しかもたらさず、気分を良くしたい時か、スポーツでテンションを上げたい時にしか効果を発揮しないようです。
それでも作業中にBGMを流す人が多いのは、たんに音楽で気分が改善するからでしょう。音楽で気持ちが良くなった状態を、「作業効率が上がった!」と勘違いしているのです。
BGM好きにはなんとも残念な結論ですが、まだあきらめてはいけません。実は、音楽のパワーを活かす道はまだ残されています。
その方法とは、ズバリ「作業の10~15分前に好きな音楽を聞いておく」というもの。先に取り上げたウェールズ大学の研究者によれば、あらかじめ好きな曲を聞くことで脳内にドーパミンが分泌されて集中力が高まります。その勢いを使って、一気に作業に取り組むわけです。
具体的なイメージは以下のようになります。
1.作業の10~15分前に好きな曲を聞く
2.完全に無音の状態で作業スタート
3.30~40分でいったん作業を休んで再び好きな曲を聞く
4.完全に無音の状態で作業を再スタート
あとはこのサイクルをくり返すだけ。この方法なら、音楽のメリットを最大限に活かすことができるでしょう。お試しあれ。
1. Gianna Cassidy, et al.“The effect of background music and background noise on the task performance of introverts and extraverts”(2007)
2. Nick Perham, et al. “Can preference for background music mediate the irrelevant sound effect?”(2010)
3. Juliane Kämpfe , et al. “The impact of background music on adult listeners: A meta-analysis”(2011)
<文/Yu Suzuki 写真/
ぱくたそ>
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「パレオな男」管理人。「120歳まで生きること」を目標に、日々健康維持に励んでいる。アンチエイジング、トレーニング、メンタルなど多岐にわたり高度な知見を発信している。NASM®公認パーソナルトレーナー。あまりに不摂生な暮らしのせいで体を壊し、一念発起で13キロのダイエットに成功。その勢いでアンチエイジングにのめり込む。11月11日、初の著書『
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