需要急増のリチウム。南米でのリチウム覇権を狙う米国と南米産出国の動き

uyuni

photo by Mauricio Navarrete Contreras via flickr(CC BY-SA 2.0)

 世界の自動車メーカーは電気自動車の開発を重要な課題としてそれに取り組んでいる。仮に<90kWhのバッテリーを搭載した場合に、リチウムの現存推定埋蔵量から判断して7億5000万台の電気自動車を生産>できるとしている。しかし、予測される年間の世界自動車生産台数から判断して、これから先、<17年でリチウムは枯渇してしまう>という推測もある。(参照:「La Vanguardia」)  米国の地質調査所(USGS)によると、2008年のリチウム産出量は2万7400トン、2015年には3万2500トンを達成した。そして、2020年には6万トンの産出が見込まれている、と報告している。  一方、リチウムの需要については、Global X Lithiumによると、2020年には29万トンから40万トンの需要が見込まれると予測されている。  現在、世界で最も注目を集めている電気自動車メーカー「テスラ」は<5年以内に50万台を生産する体制に成る>としており、その為には<3万5000トンのリチウムが必要になる>としている。即ち、それは現在、世界で産出するリチウムがすべて5年後のテスラによって消費されるということになる。(参照:「iProfesional」)  今後の推定産出量から判断すると、それは極度のリチウムの不足を生むことになる。

中東産油国の世紀から南米リチウムの世紀に

 これからリチウムの需要は急激に強まって来る。それに伴い、その価格も上昇中だ。1998年にトン当たり1770ドルであったのが、2009年には6000ドルになり、そして<今年は平均7300ドル当たりで終始>すると予想されている。(参照:「El Potosi」)  そんな中、世界の推定埋蔵量は1300万トンと言われている。そして、世界の推定埋蔵量で6割或いは8割を占めるのが、ボリビア、チリ、アルゼンチンの3か国である。これらの国を指して、「20世紀の中東の原油の世紀」から「21世紀のリチウムの世紀」に時代は移ったと呼ぶ人もいるほどだ。  3か国の中で、現在世界的に産出量が一番多いのはチリである。世界の産出量の3分の1近くを生産している。アルゼンチンがそれに続く。  そして、その潜在能力で注目されているのがボリビアだ。ボリビアはウユニ塩湖という世界で最大規模の塩湖を有しているが、まだ開発されていない。理由は多国籍企業に自国の富を略奪されるのを避けたいとするエボ・モラレス大統領の考えからである。彼は先住民出身で、歴史上スペイン人がボリビアの富を略奪したのを見て、それと同じ二の舞は避けたいという考えから、ウユニ塩湖の開発も自国資本で行うとしている。そのため、先述した「世界の推定埋蔵量」1300万トンには、世界で最も埋蔵量が多いとされているボリビアが含まれていないのである。
次のページ
忍び寄る米国の手
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会