報じられなかった「餃子の王将、中国撤退」本当の理由

餃子の王将

餃子をひらがな表記する中国1号店「大連開発区店」(2005年8月14日撮影)

 残念ながら10月31日『餃子の王将』が中国撤退を発表した。残念ながらと書いたのは、大連を拠点とする一日本人として、筆者も大きな期待を寄せて見守っていただけにその思いは強いからだ。  中国撤退だが、現実的には、約10年で大連にしか出店を果たせなかったので大連撤退と書くほうが正しいだろう。2005年1月に大連1号店がオープンした時には、『“ぎょうざ”の王将』として、「日本の餃子が中国へ里帰り」とキャッチフレーズをつけていた。一時期は6店舗まで拡大させたが、地元地権業者とトラブルを発生させたなどの噂が絶えず店舗数を減らしていく。昨年、2階建て大型旗艦店の三八広場店をオープンさせ日本人女性店長を就任させるなど業績回復を目指すも、こちらも大連撤退発表と同時くらいに閉店させた。  王将フードサービスの渡辺直人社長が「日本の餃子の味が中国で受け入れられかなった」とコメントしたことを受けて、「日本風の中華が中国で受けなかった」「現地化に失敗した」と多くのメディアで報じられている。しかし、大連にかかわる日本人や日本に留学経験がある中国人たちからは、異なる感想を耳にする。  もちろん、報じられている通り、中国では水餃子がメインなのに、焼き餃子にこだわりすぎたことや、オープン当初から最後までターゲット客が日本人なのか中国人なのかあいまいだった点なども業績不振の大きな要因だと思われる。  確かに、餃子発祥と言われる中国東北では特に餃子の味にうるさい。焼き餃子は、水餃子の残り物を翌日焼いた「家庭の残り物」という人もいる。これは事実だ。しかし、焼き餃子をメインメニューとして提供して人気を集めているローカル店が存在することも事実なのだ。  では、どうして『餃子の王将』は大連で失敗したのか。  大連在住日本人が口をそろえて言うのは、「日本の王将に比べて味が悪かった」だ。餃子はまだいいが、エビチリなどの一品料理や丼物、特にラーメンはひどくローカル店の2倍の料金を出して食べる価値はないと味についての酷評が大半を占めているのだ。中国で日本料理のFC店を展開する日本人経営者は、「丼物、たとえば天津飯の味が毎回違うので驚いた。FC店としては致命的」と指摘している。  日本の味が中国でウケなかったというよりは、むしろ逆で日本の王将の味をそのまま大連へ持ち込み再現できていたら『味千ラーメン』くらい成功したのではと言う声も聞く。  また、別の飲食関係者は、日本ナンバー1中華料理FC店として上陸したプライドが100席以上の大型店に執着させたことも敗因の一つだと指摘する。    日本メディアが報じるように中国市場のマーケティングの失敗、大連在住日本人が語るような味の問題、大型店への固執など、王将の敗因はさまざまだ。  そして更に「商標問題を抱えていた」とも言われている。実はあまり知られていないのだが『餃子の王将』は、すでに中国企業に商標登録をされていたのだ。  香川県の讃岐うどんを表す「讃岐烏冬」、佐賀県の「有田焼」、人気キャラクターの「クレヨンしんちゃん」など、日本の商標ブランドが中国で無断登録され、トラブルになるケースは過去にも続発していた。2012年に経済産業省がまとめた実態調査では、日本企業が保有する著名な商標や著作物などが不正に登録された事例は2010年に275件、3年間で2倍以上にも増加していたという。  「クレヨンしんちゃん」は2004年の提訴から8年かけて商標権が無効とされたものの、餃子の王将に関しては本家が名称を使えないという不思議な事態が起こったのだ。結果、『餃子の王将』の名称は中国では全面使用禁止となったが、商標を持つ企業と交渉の結果、大連のみでの使用が認められたのだという。しかし、この時点で『餃子の王将』としての中国全国展開の夢は絶たれていたのである。  残された最後の1店舗は、年内まで営業を続けるという。最近では、足が遠のいていた日本人が撤退決定後、来店しているようだ。  東京の知人が、11月上旬に上海へ出張して中華料理を食べたそうだが、全然おいしくないと感想を漏らしていた。そもそも中華料理という料理はこの世には存在しない。北京料理や浙江料理、四川料理、山東料理、東北料理など地域名のローカル料理のみ存在し、日本人がイメージする中華は、広東料理に近いと思われるが、これも本場より日本の中華のほうが総じてうまい。  筆者は、『餃子の王将』の日本風中華は、中国で食べる中華より間違いなくうまいと思う。ターゲットを地元中国人にして、日本で進化を遂げた「日式中華」を食べてもらうというスタンスの別名称店で再上陸させれば、中国人に受け入れられる可能性は高いと思うのだが……。 <取材・文・撮影/我妻 伊都>
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