同じく、エウロパ・プレス通信が公表したSEORの調査データーによると、スペインには現在180台の放射線治療装置があり、<100万人当たり3.9人>がその治療対象者という割り当てになるという。その割合は<14万人にひとり>という欧州連合が推奨している水準に比べ遥かに劣っているということである。
今回のオルテガ財団による寄付で290台の放射線治療装置が加えられることは、不足が指摘されている70台と既に存在している装置の4割を最新のものに交換する必要があるということを考慮すると、スペインの放射線治療は可成り改善されることになる。更に、まだこの装置のない病院にも新しく設置できるようになる。しかも、メンテナンスや装置の操作習得の為の付随費用も財団が負担することになっている。
スペインでは<毎年20万人がガン患者として診断されている>ことから、今回のオルテガ財団の決定はスペインの医療改善に大いに貢献することになる。(参照:「
La Voz de Galicia」)
アマンシオ・オルテガ財団は今回が初めての医療設備改善の為の寄付ではない。ZARAが誕生したガリシア州の病院には16台のマモグラフィー検査設置と2台の放射線治療装置の購入に1700万ユーロ(20億4000万円)を2015年に寄付している。また、昨年はアンダルシア州にも同様の目的で25台の放射線治療装置と2台のTACなどを州政府が購入できるために4000万ユーロ(48億円)を寄付している。
アマンシオ・オルテガの慈善活動の支えになっているZARAを含めインディテックスの業績は好調である。昨年度の年商は233億1100万ユーロ(2兆8000億円)、経常利益31億5700万ユーロ(3790億円)を上げている。
アマンシオ・オルテガは59.2%の株主で、その配当金は12億5600万ユーロ(1500億円)となっている。1975年にガリシア地方で1店舗から始めたファストファッション事業が、その利益を創業者の財団を通して社会に還元しているのである。
<文/白石和幸 photo by
Daniel lobo via flickr(CC BY 2.0) >
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。