「外こもり」の聖地、タイで増える日本人居住者の自殺

 11月1日、37歳の日本人男性がバンコクの飲食店で首つり自殺をした。日本料理店を経営するタイ人女性にカネを騙し取られたことを苦にしたもので、遺書があったことと状況から見てタイ警察も自殺と断定している。
タイの日本人向けカラオケ・クラブ街

W氏が自殺をしたビルがある日本人向けカラオケ・クラブ街

 日本でも報道された今年10月の79歳日本人男性のバラバラ死体遺棄事件を始め、タイの2014年下半期は日本人が関係する事件などが相次いでいる。  10月22日の深夜には、奇しくも冒頭の自殺した男性と同じ歳である37歳の男性Wさんが、日本人向けカラオケ店が集まる通りのビル内で焼身飛び降り自殺をした。タイの商業施設やオフィスビルは内部が吹き抜けになっていることが多く、そこで燃料をかぶって着火した上で飛び降りたのである。  この周辺で働く日本人に聞いたところ、数日前からWさんはこの近辺を徘徊していたらしい。働き口がなく、カネもなくなり、話を聞いた日本人のほかにも近隣の日本人と話し込む姿が目撃されていた。  火だるまになって繁華街のビルで飛び降りたことからタイ国内でも大きなニュースになったが、ほとんどの自殺は日本人だといっても報道されることがない。実はタイでは日本人の自殺は珍しいことではなくなっているのだ。タイ国内での自殺者は毎年およそ8000人前後と言われているが、その内の100人近くは日本人とされる。週に一人は日本人が自殺しているというレベルなのだ。  タイに住む日本人は日本外務省の発表で59000人を超える(平成25年10月時点)。そのほとんどがバンコクで暮らしているので、バンコクの日本人社会は日本の縮図がそのままバンコクにやってきたようなものになる。ビジネスや生活においてさまざまなストレスやトラブルが日本と同じように日本人の間で起き、追い詰められてしまう人も少なくない。
吹き抜けがあるタイの商業施設

日本の人間関係を逃れてきたであろうタイでもまた、日本人は疲弊しているのか……(写真は吹き抜けがあるタイの商業施設)

 大半の人は問題があれば日本に帰国するが、そうもいかない人はトラブルから逃れることができなくなる。以前は暴力団関係者がバンコクに逃亡してきた末に自殺する話はよくある話だった。しかし、最近では冒頭のように普通の日本人が命を絶ってしまうようになっている……。  火だるまになって飛んだWさんだが、実は筆者はタイのマスコミや日本語メディアでそのニュースが流れる以前、というよりもWさんが飛び降りて10分後くらいにはWさんの自殺と彼の本名、日本の住所を把握していた。というのも、近隣のカラオケ店のホステスらがこぞって現場に侵入し、Wさんの遺体と日本の運転免許証をスマートフォンで撮影してフェイスブックにアップしていたからだ。  防犯カメラなどから自殺と早い段階で断定した警察が現場保存を怠ったのかはわからないが、「SNSのネタができた!」とばかりにホステスらがスマホ片手に駆けつけたのは間違いがない。数年前まではニュース番組でも他殺体が映し出されるようなタイだったが、近代化の中でモラルも発達し、最近ではメディアに死体がそのまま出るということはなくなった。しかし、一般人の感覚はそう簡単に変わるものではなく、火だるまの自殺者は好奇心の格好の餌食になっただけだった。  果たしてWさんは最後に注目されるためにそれを狙って自殺したのか。筆者自身、最初にWさんの情報に触れた際にこう思った。 「タイでは死にたくない……」 <取材・文・撮影/高田胤臣>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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