著者が運営するNPO「SOSA PROJECT」 を通じて移住したKさん(3人家族)の家。もともと空き家だったが、納屋や蔵に加えて畑と裏山と井戸水も使えて、家賃は月2万円。お父さんは週2日、お母さんは週3日だけ働き、田畑を耕しながら子どもとの時間を大切にしている。
そして上野さんは「日本の場合、みんな平等に、緩やかに貧しくなっていけばいい。国民負担率を増やし、再分配機能を強化する」と言う。「みんな平等に貧しくなる」とは、上野さん流のシュールでユーモアのある発言だと思う。
まずは「国民負担率を増やし、再分配機能を強化する」という箇所。税金を高く払っても、自分や家族や、状況が厳しい方々に還元される税制、教育費や老後にお金がかからず生きて行ける北欧モデルのようなイメージを述べているのだろう。
いざ困った時に助けてもらえる制度が安定していれば、人々は何度でもチャレンジし、何度でも失敗できる。それこそが活性化する社会であり、経済の拡大が活性化とは限らない。むしろ現在、経済成長できないのに成長を目指すゆえに、働く人々の多くが萎縮してしまっている。
資産や収入の多い人、資産や利益が多い企業はより多く税金を払って社会貢献する。そうでない人や企業も当然、それ相応の税金を払う。それが目に見える形で社会的公正に使われていることがわかれば、痛税感(税金を払うのが苦痛だと感じること)は小さくなる。
税金を高く払うのが嫌なのは、何に使われているかわからなかったり、あまりに無駄なものに使われたり、既得権益のある人や企業に還元されてしまったり、賄賂や汚職に繋がったり、納得いかないことが多いからだ。そして何より、自分や家族が困った時に還元してもらえるとは思えないからである。
「平等に、緩やかに貧しくなる」というのは語弊があるものの、あながち間違いではないし、そのほうが自由度、満足度、幸福度が上がるのだ。低収入でも、安心で幸せな働き方と暮らし方を出来る例が増えてきているし、様々なデータでも示されている。
例えば、上野さんの記事が掲載された同日の『日本経済新聞』には
「フリーランス、週平均32時間労働、年収最多は300万円台」という記事がある。断片的な調査なので多極的に見ることができないが、フリーランスの約87%は、以前は大手企業勤務だったが、その約51%が「自分のやりたい仕事を自由に選べる」と答えた。
平均の週の労働時間は就業者全体の平均(38.9時間)より7時間少なかった。週の休みが1日増えるほど労働時間を短縮できていることになる。収入面は300万円台が約19%で最も多く、200万円台が約15%と次いで多かった。日本人の平均年収が415万円前後なので、概して低いのだが、労働時間は短く自由度が高いのである。