また、そういった高性能な製品が次々と日本で登場するのは、お国柄と言えるかもしれない。ジレットにとっての日本市場のポジションについて、ステファニー氏が続ける。
「日本はジレットの中で15の重点市場のなかの一つですが、なかでも特に位置づけが高い。それは市場規模が大きいことと、消費者の洗練度が高くて、プレミアムな商品が好まれるからです。日本は教育水準も高いですし、消費者の方のタイプとして、みなさん技術的なことを理解したいという欲望を持っています。反対に、国によっては『そんなことはどうでもいい』という反応のこともあります。そうなると説明がすごく大変だったりしますから」
ステファニー氏はP&Gアジアで長年、国籍や性別を超えた人材の発掘や能力開発に携わってきた
アジア全域のヒゲソリ市場を見てきたステファニー氏が言うには、「広いアジアでは、国によってヒゲソリの文化から好まれる商品まで、さまざまな違いが出てくる」という。
「例えば、中国ではT字カミソリよりも電気カミソリのほうが人気ですし、インドネシアやインドでは昔ながらの一枚刃のカミソリのほうが人気です。インドネシアの農村部だと、もともとそんなにヒゲが濃くないということがあって、コインを二枚重ねて、ヒゲを挟んでグイッと力を入れて抜いたりするんですよ(笑)。痛いと思うんですが、それだけ慣習が違うんです」
そういったバックグラウンドの違いも視野に入れつつ、さまざまなマーケティング手法を並行して行うことによって、ジレットは世界での地位を築いてきたのだ。
「まず、商品ラインナップにも変化をつけます。日本だとプレミアムな商品により力を入れますし、途上国ではそれがシンプルな商品、例えば使い捨てのカミソリや昔ながらの二枚刃のカミソリだったりします。宣伝方法も同様です。消費者やメディア状況も違うし、インターネットの普及率はそれなりに各国とも高いのですが、そうはいっても日本はよりスマホの普及率が進んでいるけど、途上国の中にはまだノキアのスマホじゃないケータイが主流の国もあります。インドだとテレマーケーティングがまだ力を持っていたりします。国によってどのメディアを使うのかも変わるのです」
たかがカミソリと侮れない創意工夫が世界中でなされているからこそ、世界のトップブランドで居続けられるのだ。<取材・文・撮影/HBO取材班>