高関税を適用できるのかという疑問もまた別にある。自動車パーツの問題である。昨年1月から11月までに米国がメキシコから輸入した自動車及びその部品の総額は3214億2000万ドル(36兆9700億円)であるが、1365億ドル(15兆7000億円)は部品の輸入総額である。この数字で見る限り、輸入総額のほぼ半分近い金額が自動車部品の輸入なのである。それにも35%の関税を適用するのであろうか。
何れにせよ、米国とメキシコの労賃だけを見るとメキシコの方が労賃コストは8割安いのである。総合的に見た生産指数はメキシコでの生産の方が2割程度安くなる。しかし、実際にはメキシコでの生産の方が、米国での生産よりも粗利を3倍稼げることになっているという。(参照:「
Manufactura」)
米国での生産コストとメキシコのそれを比較すれば、断然メキシコの方が安く、収益も高い。それを承知でメキシコでの生産を諦めて、米国での生産に切り換えるのはコスト面だけから見ると競争力を失うのは当然である。米国政府による税金免除などがない限り、米国での生産はメキシコのそれと比較して競争できないのだ。
トランプ氏が次期大統領になっても、一期4年の政権を維持できれば上出来であろう。彼の政治姿勢では敵を作るばかりで、二期8年の政権を維持することはほぼ不可能である。彼がいなくなった後からメキシコへの投資を再現させるとなった場合に4年のブランクは非常に大きい。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。