GDP770兆円を実現するには何が必要か?――デービッド・アトキンソン氏の処方箋
2017.01.04
バブル崩壊後、銀行がひた隠しにしていた不良債権の総額が20兆円にも上ることを言い当て、当時濫立していた都市銀行が、将来的に「2~4行のメガバンクに収斂される」と予見したことで、’90年代当時「伝説のアナリスト」と称されたデービッド・アトキンソン氏。彼は「日本は『潜在能力』こそ高いが、それに見合った結果を出せていない」と語る。しかし、今立ち止まって大きな構造転換を図れば、GDP770兆円、そして平均所得を倍増させることも十分可能とも……果たして、その予見は再び現実のものとなるのか?
【デービッド・アトキンソン氏】
’65年、英国生まれ。オックスフォード大学で日本学を専攻。卒業後、ソロモンブラザーズやゴールドマンサックス等の証券会社を経て、’11年に小西美術工藝社の社長に就任
――前著『新・観光立国論』では、「気候」「自然」「食事」「文化」の4要素が揃っている日本は観光大国を目指すべきと提言している。訪日外国人が求めているサービスと日本が提供するサービスのギャップを改善すべき、といった問題提起も数多く記されており、これを受けて政府もようやく動き出しました。
アトキンソン:本の出版を機に事態はかなり動きました。「国立公園満喫プロジェクト」が環境省主導で始まり、赤坂迎賓館の一般公開も解禁されました。安倍総理が議長を務められた観光ビジョン構想会議では、菅官房長官もものすごく積極的に動かれるなど、観光産業を変えようと奮闘しています。このように政府も徐々に変わってきていて、実際に今年の観光客数は2400万人近い数字になると予想され、10年前の400万人からすると、考えられないくらいの成果を上げています。当時、山本幸三先生(衆院議員)が会長を務めた自民党の観光立国調査会でも数回プレゼンテーションをしたのですが、何年か前までは皆、興味のなかった「観光論」がかなり話題になりました。しかし、あの本はデータサイエンスの集約なので、実は、誰でも書けることを私が書いたまでです。
――’90年代初頭、バブル崩壊で揺れる日本に来て、不良債権問題を鋭く抉るリポートを発表しました。メガバンクが「2~4行」に収斂すると、まさに今の日本の姿を予見していると話題になりましたが、当時日本の金融業界を崩壊させかねないデータだったため、「CIAの回し者だ」といった根も葉もない批判を受けたとも聞きます。
アトキンソン:日本人には耳の痛いことも多く書いたので『新・観光立国論』のときもかなり叩かれました。「都合のいい数字ばかり並べ立てて、日本を貶めようとしている!」「反日英国人だ!」などと言われ、右翼団体の抗議を受けたこともあるくらいです。アナリスト時代の’91年に、不良債権額のリポートを発表したとき、真面目に働いているのにそんなことが起こるはずがない、と日本人の誰もが思っていました。私は、当時主流であった「銀行の開示しているデータから不良債権額を分析する方法」ではなく、「マクロ経済の視点で見ると、どれくらいの額になるのか」という構造分析を行ったのです。また、多くのアナリストは「あの銀行と、あの銀行が一緒になればいい」という分析方法でしたが、私の場合は「そもそも銀行は何行必要なのか」という論法で考えました。自分のような算出方法を使う人は、今もあまりいませんね。
――アナリストを辞め、現在、日本の文化財に関わる仕事に就かれましたが、なぜこのタイミングで、再びアナリストの仕事をやろうと思ったのか。
アトキンソン:外資系証券会社の人は、40代半ば頃に仕事を辞める人がほとんどです。当時から、不良債権問題に関わっていて「必要な銀行数は2~4行である」というテーマだったのですが、それがほとんど実現したので証券業界を辞めました。分析リポートの説得力があまりにもあったので、当時の金融庁が、私が出したリポートの計画通りに動いた……という噂話も後で聞きました。GSを辞めた後は、日本の伝統文化に触れるため、京都に家を買い、趣味である書やお茶を学んでいました。そんなときに、たまたま軽井沢の隣の家に住んでいたのが、小西美術工藝社の先代の社長である小西美奈さんで、彼女に誘われたのが入社のきっかけです。入社当時、寺社仏閣の修理をする職人さんの環境には、多くの問題がありました。そこで、GS時代のように、まずは業界分析を行い、1つの会社としてはどうするべきかを考えたのです。当時と規模が違うだけで、やっていることは変わりません。この業界をよくするために、日本経済に貢献できる位置付けであることが重要だと考えました。それが私にとっては、訪日外国人を増やすための観光戦略なのです。
取材・文/清水亮太 撮影/杜 承嘉
― 「生産性向上社会」にシフトせよ!デービッド・アトキンソン氏 ―
本の出版がきっかけで政策提言するように
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