エボラは序の口。死者1億4000万人で世界経済を破滅させる恐怖のウイルスとは?
2014.11.06
國尾一樹
西アフリカを中心に感染拡大しているエボラ出血熱。WHOの報告によると、わかっているだけで、主にギニア、リベリア、シエラレオネで1万3567人がエボラ出血熱に感染。このうち約5000人が死亡したとされている。
先月の10月27日には、リベリアで取材をしていたカナダ国籍の日系人ジャーナリストが羽田空港で発熱していることが判明し、直ちに隔離された。幸いにも検査の結果は陰性だったために騒動は収まったものの、「エボラ出血熱が日本に上陸するのは時間の問題」といった見出しに迷わされ、不安どころか恐怖心さえ抱いている人も多いことだろう。
実際にエボラ出血熱という疫病はこのまま感染拡大をする危険性はあるのだろうか? 元国立感染症研究所研究員で、現在は白鴎大学教授でもある岡田晴恵氏はこう解説する。
「エボラウイルスはこれまで20数回流行しましたが、中部アフリカの村々で数十人から数百人が感染、流行するという規模だった。今回のように感染拡大したのは、西アフリカの人口が密集する都市部に入ってしまったことが大きい、また、潜伏期間が2~21日と長いために、まだ発症することなく元気な感染者が飛行機に乗って移動してしまうといったことも問題です。こういったことが原因で、これまで地域だけで収まっていた風土病が疫病になりやすくなってきたということの典型例なんです」
さらに、「あまりにデータが少ないのでどこまでウイルスが変異するのかわからないことが多い」とした上で岡田氏は言う。
「エボラウイルスは、一部の研究者の間では空気感染があるのではないかといった見方もありますが、それはないと考えています。エボラウイルスに感染する危険性があるのは、感染者の体液に直接接触したり密に接する可能性のある家族や医療従事者です。しかも、感染の疑いがある人はすぐに隔離できる体制が先進国では整っているので、心配しすぎる必要はないでしょう」
エボラは、潜伏期が長いので水際で防ぐことはできないが、先進国では感染者が見つかって騒動になるようなことがあったとしても、そこから感染拡大して流行するといった可能性は今のところ低い。必要以上にエボラ出血熱に対して恐怖心を抱く必要はないが、安心するのはまだ早いようだ。
「感染者の血液や体液に直接接触しない限り感染しないと言われるエボラウイルスでさえ、これだけの騒ぎになるということは、逆に他の感染症の流行があってもおかしくない。数あるウイルスのなかでも、くしゃみの唾液のさらに細かい微粒子がしばらく空気中に漂うことで、狭い密閉空間であれば空気感染に近い形で感染する飛沫核感染といった強い伝播力を持ったインフルエンザが怖い。しかも、H5N1のように、人でも6割の致死率を持つ鳥インフルエンザから新型インフルエンザが出現することになれば、最悪の事態となるでしょう」(岡田氏)
今ではすっかり忘れ去られたかのような形になっているが、つい数年前までWHOをはじめ、世界中が最も恐れていた感染症は、アジアで猛威を振るうH5N1型の強毒性鳥インフルエンザウイルスだった。
このウイルスが鳥から人への感染例が認められるようになって変異を繰り返すなかで、いずれ人から人へ感染する新型インフルエンザとなり、パンデミック(世界的大流行)を引き起こすと言われ続ける最凶のウイルスだ。
「エボラ出血熱の騒ぎで今はすっかりトーンダウンしてしまいましたが、H5N1は決して消滅したウイルスではないですし、いつかパンデミックを引き起こすというリスクは今もなお続いています。地球規模で人口密度が高くなるなかで、21世紀は人類が感染症と闘う時代なんだと再認識したほうがいいでしょう。今や遠い国で起こったあらゆる感染症は対岸の火事では終わることなく、瞬時に日本にやってくる可能性だってあるということを忘れないでいただきたいですね」(岡田氏)
思い返してみれば、H5N1型の強毒性鳥インフルエンザウイルスが新型インフルエンザとなった場合、確実にパンデミックを引き起こして最悪の場合、死者数は全世界で1億4200万人にものぼるといった試算もある。その場合、経済損失は4兆4000億ドルに達するとも言われている。その試算通りになるとすれば、当然、世界経済が破綻するのは確実だろう。
エボラ出血熱を警戒することはもちろん大切なこと。しかし、その影でもっと恐ろしいウイルスが跳梁跋扈していることを、我々は決して忘れてはならないのだ。<取材・文/國尾一樹>
おかだはるえ●順天堂大学大学院医学研究科博士課程中退。医学博士。国立感染症研究所ウイルス第三部研究員、(社)日本経済団体連合会21世紀政策研究所シニアアソシエイトなどを経て、現在は白鴎大学教育学部教授。専門は感染免疫学・ワクチン学。『感染爆発にそなえる―新型インフルエンザと新型コロナ』(岩波書店刊)や『なぜ感染症が人類最大の敵なのか?』(ベストセラーズ刊)など、著書多数。

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