90年代に人気を博した芸術家、ケン・ドーン氏が資産管理トラブルに巻き込まれ44億円を失っていた!

 だが、G氏の“反撃”は早かった。  自身のB会計事務所は、ケン・ドーンに事態が発覚した2005年に清算手続きで解散。G氏の管財人としてのキャリアは豪政府官報にも数多く散見され、この方面のブロフェッショナルであることが分かる。提訴が行われた2007年には、G氏自身が破産手続き。これで、ケン・ドーンの請求先はウ社のみとなった。しかしウ社を抱えるコモンウェルス銀行(CBA)は時価総額で豪州一のメガバンク。2016年度税引き後利益92.2億豪ドル(約7400億円)、従業員約52000人(参照)。銀行以外にも年金、保険、調査など、豪州金融の中枢を担う。東京支店もあり、法人向け業務を行っている。  CBAはオーストラリアでも最大の銀行だ。彼らには資金もあり強力な弁護団もついている。ケン・ドーン氏にとって裁判を継続するのは大きな負担になっていった。

「絵を描くことだけがやりたい」

Sunday, 1982, oil on canvas, 102 x 82 cm 初めての個展をシドニーで開いたのは1980年、40歳のとき。芸術家としては遅咲きだった

 次回公判まで1週間となった2011年7月8日。ケン・ドーン氏は調停による和解に同意する。詳細は明らかにされていないが、銀行側はこれまでにかかったケン・ドーン側の弁護費用をカバーする程度(推定約400万豪ドル、約3億2000万円)を賠償額として示したらしい。  和解とは、これ以上裁判を継続しない、請求権を放棄することが確定したことになる。詐欺なのか資金使い込みなのか横領なのか、オフショアを利用した高度な詐取スキームなのか、それとも単なる意思疎通の誤りなのか。資金の消えた先が分からない以上、一体何だったのか分からない。  こうしてケン・ドーン氏が積み重ねて来た44億円は、闇に消えてしまった。 「結局、何の補償も手にしていない。受け取った賠償はそのまま弁護士費用にあてた。お金はなくなってしまったんだよ。勉強になった。でも、勉強は一度きりでじゅうぶんだ。以前にも増してお金に関心が薄くなった。そっちの方面はいま家族の者にやってもらっている。過ぎたことは整理して、前を見なければならない。私が本当にやりたかったことは100%、絵を描くことなんだよ」 <取材・文・撮影/沢木サニー祐二  作品画像/Sunday, 1982, oil on canvas, 102 x 82 cm via Ken Done official site> 【沢木サニー祐二】 オージー文化評論家。国際調停人。講談社で『週刊少年マガジン』、『科学図書ブルーバックス』などを手がけた後、渡豪。日本経済新聞シドニー支局現地記者(2013-15)、ニューサウスウェールズ州治安判事、オーストラリア全国調停人協会認定調停人、英国仲裁人協会会員。著書に『「おバカ大国」オーストラリア – だけど幸福度世界1位!日本20位!』 (中公新書ラクレ)、『潜水艦 Option J いつか浮上へ: 海外に挑もう がんばれ日本ビジネス』(KDP)など
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