【雇われない生き方】農業人口激減の中、前年比10%増の売り上げを課される農業機器営業マンの苦悩

「だます」「ごまかす」「嘘をつく」の横行に悩む

 農家が前年比10%近く減っているというのに、農家に農業機器を前年比10%増しで売れという目標を課されたAさん。どうしたって、同業他社や同僚と食い合いになる。 「本当に、生きるか死ぬかですよ。経済学者や政治家は『労働生産性をあげよ』『さらに投資すれば』『イノベーションで打開しろ』と言うけど、まったく的が外れている。最後は『もっと頑張れ』の精神論になってしまう。経営者も上司も戦略を示せず、売上目標の空虚な旗振りだけ。結局、『だます』『ごまかす』『嘘をつく』が横行するようになります」(同)  次第にAさんは良心の呵責に苛まれてゆく。 「農家さんから機械の故障で部品交換を頼まれても、その部品があるのに『ない』と言って新品に買い替えさせたこともあります。そうやって何度もだまし続けて実績を上げました。新入社員のころ、農家さんが30年近く使ってる乾燥機を修理したら、先輩社員と販売店セールスから怒られたことあるんです。『新しい機械を買わせるのが仕事で、俺たちは修理屋じゃないぞ』と。営業の仕事なので、その考えも一理あると思うのですが、葛藤が芽生えました。でもこれは同僚もしている。同業他社の営業マンもしている。生き残るには仕方がない』と自分に言い聞かせて頑張ってきたんですが、もう限界でした」(同)  Aさんは悪い人だろうか? 弱い人だろうか?  これは、農業機器メーカーだけの話に収まらない。減っているのは農業人口だけではないからだ。日本の総人口も、労働人口も減っている。正規雇用も減っている。購買能力がある層も減っている。国民の実質賃金も、財布の中身も減っている。  経済成長を目指した結果、格差が広がり、人類が生き延びるための環境が汚染され、人権の基盤が破壊されていく。今の経済成長システムにしがみつこうとするほど、ますます私たちはジリ貧になってしまう。
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「経済成長イデオロギー」以外の選択肢
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