Googleが福利厚生に採用した「ブラジリアン柔術」が日本のビジネスマンにも人気な理由
最先端企業であるGoogle本社は激務がある代わりに社員への福利厚生に力を入れているのは有名な話。
社内のレストランは無料だし、お菓子が無料で食べ放題。レトロゲームコーナーからレゴブロックコーナー、社内に滑り台まであるのはネットでも何度か話題になった。
そんなGoogleが、今夏より社員への福利厚生の一環として、ある格闘技のクラスを設けており、社員にも好評を得ているという。
それは「ブラジリアン柔術」。日本では、かつて「グレイシー柔術」として話題になった寝技中心の格闘技である。
実はアメリカではすでにブラジリアン柔術はセレブの間でも話題になっており、ハリウッドスターでも、ニコラス・ケイジやメル・ギブソン、映画監督のガイ・リッチーに女優のミラ・ジョヴォビッチなど錚々たる面々がブラジリアン柔術を学んでいる。
日本でも、雑誌「POPEYE」のファッション特集で柔術衣が登場するなど、敏感な人やビジネスマンの間で着々と柔術人気が高まっているという。
なぜ激務のビジネスエリートがブラジリアン柔術に熱中するのだろうか?
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7年前に会社の仲間が社内で愛好者を募って始めたブラジリアン柔術に熱中し、社内サークルが終了したあとでも先生のもとに通い続けているゲーム会社でプログラマーをしている内山則夫さん(仮名・40歳・紫帯)は語る。
「座りっぱなしの仕事で腰痛に悩まされていたのが、柔術を始めてからすっかり解消されました。体重も20kg以上減った」と語る。
このように、身体的な変化は当然のことだが、柔術をやるサラリーマンたちは他の「メリット」もあるという。
「仕事中心だと同じ世界の人としか出会わないけど、柔術の練習に来ると他のジャンルの人に会えるのは大きいですね。あと、40代にもなると、人は“負ける”ことを上手に回避できるようになったりするでしょう。でもある年齢まで行ったとき“負ける”ことができるって大事だと思うんです。柔術は“負ける”ことを味わえる場でもあります。柔術は身体を使ったチェスだって言われるように、根性論や精神論より技術メソッドが確立されてる知的な面がGoogleなどの先端企業で評価された気がします。がんばれがんばれだけでは続かない、テクニカルタームや技術のコミュニケーションがビジネスの世界でも十分に役に立つのではないでしょうか?」(江藤修さん・仮名・41歳・グラフィックデザイナー・茶帯)
「仕事で精神的に追い詰められて、忙しくて練習に行けないときもあります。でも“行けなくて残念”と思える場所があるのとないのとでは心の持ちようが違う。激務で心を病む人も少なくない中、かろうじて踏ん張っていられるのは職場とも家族とも切り離された“自分だけの場所”があるからだと思っています。また、他の格闘技やコンタクトスポーツより安全で、創意工夫やコミュニケーションが求められるスポーツなのがいいですね」(大杉幸一さん・仮名・39歳・印刷会社・紫帯)
「いわゆる“格闘技”や“武道”の厳しさやストイックさとは違い、ブラジリアン柔術特有のものなのか仲間と明るくコミュニケーションを取りながらできるので、ギスギスした日常から開放される気がします。特に、お互いが接触して技を掛けあって修得するブラジリアン柔術の練習はビジネスやプライベートの友人とも違う別のコミュニケーションになっていると思います」(島田航平さん・仮名・20代・出版・白帯)
「昔はプロとしてキックボクシングをやっていたんですが、柔術は格闘技でありながら乱暴な感じがしないのもいいですね。知的な格闘技だと思います。特に、先生が一つの技に固執しないスタイルのせいか、自分も自然と柔軟な考えになってきます。歳を取ると頭が堅くなりますが、そういうこともなくなった気がします」(加賀屋俊彦さん・仮名・46歳・不動産・紫帯)
「練習時間を捻出するために、以前だとダラダラ残業してしまったのが改善されました。仕事も時間内に終わらせるべく頑張るし、家族には練習に行く理解を得るためにサービスするし、なんだかんだ時間や人間関係のマネジメント能力が高まった気がします」(阿佐ヶ谷ひろしさん・仮名・43歳・広告)
「一つ技を身につける毎に強くなる実感が湧き、それが継続的に続くのでモチベーションが長く続くのが柔術の楽しさの本質だと思っています。ビジネスエリートでも色々なタイプが居ると思いますが、例えば英単語を通勤時間に一つ一つ覚え、地道にキャリアアップを達成するような努力型のタイプと柔術はかなり親和性が高いんじゃないでしょうか?」(前出の内山さん)
文京区白山の「CDJJ(Clube de Jiu-jitsu/クルービ・ド・ジウジツ)」という道場も、21時半から始まる社会人クラスを設けている。
同道場の指導者であるブラジリアン柔術黒帯の和道稔之さんは本場ブラジルの状況をこう語る。
「Googleのクラスでも男女含めてたくさんの人が集まったといいます。ブラジルでも、柔術道場の夜のクラスは社会人がたくさん来て汗を流しています。貧乏な人もいれば大学教授もいる。立場を超えて汗を流してコミュニケーションできる場となっています。また、寝技が多く、怪我が少ないことや、相互に技を掛けあって練習することでお互いを尊重するようになるのことも大きいでしょう。私自身、企業の社内サークルで指導したこともありますが、社内で同時期に始めると健全なライバル意識や仲間意識が生まれていい刺激になり、社員の健康も改善されると思います」
コミュニケーションの場になると同時にストレス解消にもなり、身体も健康になると同時に護身術にも役立つ……。
Googleがブラジリアン柔術を福利厚生の一環として取り入れた背景には、最先端企業ならではの超合理的な理由があったのかもしれない。
<取材・文・撮影/HBO取材班 取材協力/clube de jiujitsu (http://www.wado-jiujitsu.com/)
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