英断か勇み足か? 若きローマ市長、2024年五輪開催地立候補から撤退を決定

ラッジ氏が撤退を決めた理由

 ラッジ市長が開催に反対する理由は次のような根拠からである。 ●22億5000万ユーロ(2480億円)の負債を抱え、失業率11%のローマ市が開催地に立候補するのは無責任だ。 ●1990年のサッカーワールドカップで発生した負債の返済に25年かかった。 ●2006年のトリノ冬五輪の負債は現在も返済中だ。 ●2009年の水泳世界大会を予定していた、(スペイン・バレンシア出身の著名建築家)カラトラバ設計による建物は、この大会がイタリアで開催されず、今も工事途中のままになっている。 ●マドリードも次期五輪への立候補は開催費用を考慮して取りやめになっている。 ●バルセロナオリンピックは当初予算の266%上積みされた費用がかかった。 (参照「Marca」、「El Mundo」)  こうした事実及び、五輪開催決定後に予算がどんどん上乗せされていくというメチャクチャな光景を見てきた東京都民からすれば、ラッジ氏の決定は評価できる面もある。現に、彼女は五輪開催に反対する70%のローマ市民の意見を勇断をもって尊重した。それがまた選挙での彼女の公約でもあった。  しかし、当然のようにオリンピックの受益者はいるわけで、「開催が決まれば、ローマ市に特別予算も組まれ、競技場の建設などで一時的ではあっても雇用が増える」という主張もあるため、ローマ財界の一部やオリンピック委員会、あるいは所属政党であるM5S党首のグリッロ氏からも「政治の素人」扱いを受けつつある。現に彼女はその他の公約についてはほぼ何もできておらず、ローマ市政をカオス状態に陥らせているのも事実だ。  今回のラッジ市長の決定を受けて、レンツィー首相は2028年の開催に立候補する意向を表明した。果たして、ラッジ市長は「政治の素人」や「ポピュリズム政治家」扱いを打破して、評価を確立できるのか。あるいは結局は2028年の開催が決まり「お騒がせしただけの政治の素人のポピュリスト」という評価を後世に残すようになってしまうのか。日本の、東京都民ものんきに見守れる立場ではないかもしれないが、今後の行方を見守っていきたい……。 <文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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