続いて、本業の映画事業を詳しく見ていこう。主に稼ぐ手段は製作した映画の配給と、TOHOシネマズを中心とした映画館での興行、DVDの販売の3つだ。配給を中心とした映画営業事業の収入は492億円、映画興行事業は735億円、物販を行う映像事業で286億円となっている。
映画を作って配給するだけの方がコストは抑えられて利益率は高いが、自前で映画館を運営して来場者からお金を集める映画興行が一番売上が立つ。当たり前だが、映画がヒットして来場者が増えれば増えるほど儲かる仕組みである。
ここで他のコンテンツビジネスと比較して映画ビジネスの特徴を考えたい。他のコンテンツと比べて、映画は
1.一番製作にお金と期間がかかる
2.当たり外れが少ない
という特徴がある。1.に関しては直感的に理解できるが、2.に関しては本当か?と思うかもしれない。
もちろん、映画にも「異例の大ヒット」もあれば「異例の大ゴケ」だって存在する。だが、その幅に注目したい。『シン・ゴジラ』は製作費だけで10億円ほどかけたそうだが、こうした作品はいくらこけても1桁億円の収入は見込めるだろう。一方ヒットした場合も100億円程度だから上下の幅がせいぜい数十倍だ。
これが他のコンテンツビジネスのゲーム、本・マンガ、音楽ならどうだろう。初版数万部のマンガが大ヒットしてシリーズ累計数千万部を超えることもよくあるし、一本のゲームが会社の利益をその後数年にわたって支えることもある。
一昨年は18期連続で減益していた講談社が『進撃の巨人』一作のおかげで増益に転じたし、任天堂が「ポケモンGO」のヒット1つで時価総額を2兆円ほど増やしたのは、記憶に新しい。どん底の状態にあったミクシィが『モンスト』のヒットで大増益、ここ数年間会社全体で好調という例もある。
一方で映画というコンテンツは、映画館という流通チャネルに限りがあり、上映期間もせいぜい数か月と限定的なため、そのような「逆転満塁ホームラン」が生じにくい。ゆえに、一発二発当てれば継続的に会社を支えられる収入がうみだせるわけではないので、一定以上にヒットするものをコンスタントに作り、世に出し続けなければならない。
東宝は’15年通期は40本の製作・配給を行い、’16年は第1四半期だけですでに13本手がけている。1タイトルごとにしっかり数十億円ずつ稼ぐことで、トータルで1500億円以上の映画事業の売上が成り立つのである。東宝の今後の作品にも期待したい。
【決算書で読み解く、ビジネスニュースの深層】
<文/大熊将八>
おおくましょうはち○現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『
進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。twitterアカウントは
@showyeahok