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肉フェス」が食中毒騒動に揺れている。なぜこんなことになっているのだろうか。確かに一時期の“鶏の常識”は、「鶏肉も(魚同様)鮮度がよければ、生で食べられる」だった。’00年代に入ってもその常識は一部で生きていた。
だが、たった一度の食あたりが生命を左右しかねない。それが鶏刺しだ。国内のカンピロバクター食中毒の原因は「不明」を除けば、「生、もしくは加熱不足の鶏肉」がほとんどなのだ。
実はカンピロバクター食中毒は、国内においてもっとも多い食中毒だ。厚労省のデータで2014年の食中毒発生状況を見ると、カンピロバクター306件(患者数1893人)、ノロウイルス293件(同10506人)。年によって多少の前後はあるものの、ここ十数年、カンピロバクターはノロウイルスと並んで、もっとも多く食中毒を多く出している原因菌だ。
そしてカンピロバクターは、指定難病であるギラン・バレー症候群との関わりが証明されている、唯一の食中毒菌でもある。
カンピロバクターからギラン・バレー症候群に至る流れは次の通り。
菌に汚染された食べ物から食中毒を発症して腹を下す。潜伏期間は2~7日。下痢自体は数日で治るが、回復後数日(感染から1~2週間)でギラン・バレーの症状が発現する。両手足の筋力が低下し、四肢に力が入らなくなり、感覚障害が加わるケースもある。重症になると神経障害に至り、呼吸不全を起こした死亡例もあるという。イギリスでは、発症1年後の時点でも約4割の患者に歩行困難などの後遺症が残ったというデータもあるという。
2014年、国内で市販の鶏肉におけるカンピロバクターの汚染率を調査した論文が発表された。その結果、サンプルとなった国産鶏肉の実に61%がカンピロバクターに汚染されていた。海外ではギラン・バレーの罹患率は、人口10万人あたり1~2人とされるが、国内では年間千数百人がギラン・バレー症候群に罹患し、そのうち約30%がカンピロバクター由来だと言われている。
無縁でいられたはずのギラン・バレー症候群も、ひとたび鶏肉を生食した瞬間、リスクが格段に上がるのだ。
そもそもカンピロバクターは、牛、豚、羊、野鳥及び鶏など家禽類の腸管内に広く常在菌として保菌されている。鶏の場合なら丸鶏から内蔵を抜くとき、内臓を傷つけたりすると身肉が汚染されてしまう。
2007(平成19)年に宮崎県が作成した「生食用食鳥肉の衛生対策」という資料にも「腹腔切開、内蔵摘出は消化管を傷つけないように行う」「解体・カットした生食用肉は専用の容器に入れ、他の部位肉や内臓と分別する」「包丁やまな板などの使用する器具は、生食用食鳥肉専用のものとする」などのガイドラインが掲載されている。しかもここに挙げた例は、すべて赤字で強調されて書かれた部分である。