地震の数日後、ケーキの写真をアップしたら友達からSNSで罵倒された。どう謝ればいいのか?
2016.04.22
【石原壮一郎の名言に訊け】~アランの巻
Q:熊本や大分で大きな地震がありました。「ここはあえて平常心で」と思って、フェイスブックにケーキの写真を投稿をしたら、友達からメッセージで「被災地の人が苦しんでいるときに、そんな投稿をするなんて信じられない! 人格を疑う!」と罵倒されました。自分としては「それは違うだろ」という思いがあるので削除はしていませんが、友達を不愉快にさせたのは悪かったと思ってます。でも、どう謝ればいいのかわかりません。その友達は、被災地に身内や友達がいるわけではないようです。(東京都・27歳・営業)
A:たいへんな地震が起きてしまいました。ここでこう書いても決まり文句になってしまう無力感を覚えながらも、犠牲になられた方に謹んでお悔やみ申し上げるとともに、被害に遭われた方には心よりお見舞い申し上げます。これも、わざわざ書いたり言ったりすることではないと思いますが、自分にできる範囲の支援や協力をしたいと願っているのは言うまでもありません。相談者の方も、たぶん同じ気持ちなのではないかとご推察いたします。
今日も喫茶「いしはら」は閑古鳥が鳴いているので、私が自分でお答えします。SNSって、便利だけど罪作りですよね。九州で大きな地震が起きて以来、フェイスブックもツイッターも、かなり混乱した状態になっています。もちろん、被災地に身内や友達がいて何とか力になりたいと願っている方が、不安な気持ちを吐露する場にしたり情報を収集&発信したりするのは、SNSの特性を活かした有効な使い方だと言えるでしょう。
しかし、「力になりたいけど何もできない自分がもどかしい!」という気持ちが高じたのか、いろんなことに対してケンカ腰でイチャモンをつけるなど、せっせと凶暴な書き込みをしている人も少なくありません。「私はこんなに心配している」「私はこんなに感受性が豊か」とアピールしたいだけの人も、たくさん見受けられます。
5年前の東日本大震災後のときにも、ネット上で残念な光景が繰り広げられました。そのときに「何もできない人が騒いだり、曖昧な情報を広めたりしても迷惑なだけ」「被害のなかった地域は通常の経済活動をすることが大切で、それを『不謹慎』だと責めるのは単なる自己満足」という教訓を得たはずですが、また似たようなことが繰り返されています。
言うまでもありませんが、具体的に行動している人やそれを応援している人を批判するつもりは毛頭ありません。どうかと思うのは「自己満足や自己主張のために騒ぎたいだけの人」です。タチが悪いのが、政治的主張をしたり日頃から気に食わない対象を攻撃するために災害を利用している人たち。それこそ「不謹慎」以外の何ものでもありません。食べるものがなくて困っている状態の被災地に千羽鶴を送り付けて悦に入るのと同じことです。
相談から話がずれましたが、その友達も「何もできない自分」がもどかしくて気が立っていたのでしょう。あなたにしてみれば完全にとばっちりです。なのによくわからないけど謝らなきゃと思っているあなたは、きっといい人に違いありません。とくに謝る必要はないと思います。ただ、友達も平常心を失ってやってしまったことなので、それこそ全面的に嫌ったり人格を疑ったりせず、大らかな気持ちで落ち着くのを待ってあげましょう。
フランスの哲学者であり文芸評論家であるアランは、こう言っています。
「喧嘩をつくるのは倦怠だ。その証拠は、いちばん喧嘩好きなのは、仕事や心配のいちばん少ない人間に決まっているからだ」
ざっと見たところ、ネット上で次々に攻撃する相手(政治家とかマスコミとか主張が違う人とか失言をした人とか)を探しまわってケンカ腰で騒いでいるのは、何の被害も受けていないし被災地に身内がいるわけでもない人ばかりです。それがいかに失礼でみっともない行為かということに、いつか気づく日は来るんでしょうか、ずっと来ないんでしょうか。
でも、ネット上のトホホな光景を見て「こいつら、いいかげんにしろよ」とイラだってしまうのも、ケンカ好きの人たちを批判しているこの記事だって、いわば同じ穴のムジナ。アランは「幸福の秘訣のひとつは自分自身の不機嫌に無関心でいること」とも言っています。不機嫌の連鎖に巻き込まれていないで、毎日を明るくたくましく一生懸命に生きていきましょう。困っている人たちを助けるために必要ないろんな「力」を蓄えるためにも。
【今回の大人メソッド】
SNSでデマを拡散している人たちも誰かや何かをケンカ腰で攻撃している人たちも、当人たちは「いいことをしている」と思っています。一見「いいこと」に思える事がらに対しては、人は疑う気持ちを省略してしまいがち。「いいこと」をするときほど慎重にならないと、思わぬ落とし穴にはまってしまいます。「悪気はなかった」で済む話ではありません。
【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。
いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
「いいこと」をするときほど念入りな慎重さが必要
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