自民党丸山発言と2004年のオバマ演説に見る「政治家たる資質」の差

バラク・オバマの演説

「ありがとう。ありがとう。ディック・ダービンさん。ありがとう。あなたのおかげで誇り高い気分です。  我が国の真ん中、リンカーンの土地、偉大なるイリノイ州を代表して、この党大会で演説する栄誉を授かったことに心からの感謝を申し上げます。  今夜は、私にとって、とりわけ名誉なことです。率直に言って、私がこの舞台に立っているのは、かなり意外だからです。

Barack Obama Speech at 2004 DNC Convention via YouTube

 私の父は、ケニアの小さな村で生まれ育った留学生でした。父はヤギ追いながら育ち、トタン葺の小屋のような学校に通いました。父の父、つまり私の祖父はコックでした。イギリス人の召使として働くコックでした。  しかし私の祖父はもっと大きな夢を自分の息子に抱いていました。。勤勉と忍耐の結果、夢の国で学ぶための奨学金を獲得しました。夢の国とはアメリカ。沢山の人々に自由と希望の灯台のように光り輝くこの国です。  この国で学んでいた最中、父は、母と出会いました。  母は地球の反対側で生まれました。カンザスです。祖父は油田で働き、大恐慌の時代は百姓をしていました。真珠湾の翌日、祖父は志願し、パットン将軍率いる陸軍に入り、ヨーロッパ戦線で戦いました。銃後では祖母が赤ちゃんを育てながら、爆撃機の製造工場で働きました。戦後、復員軍人支援法のおかげで学び、連邦住宅局を通じて家を買い、そして、その後、さらなる機会を求めて西へ向かいハワイに移り住みました。  母方の祖父母もまた、娘に大きな夢を持っていたのです。アメリカとアフリカ、二つの大陸に共通する夢です。  私の両親はありそうもない愛を分かち合っていただけでなく、この国の可能性に不変の信念を抱いていました。  両親は私を、アフリカ風に「バラク」と名付けました。寛容の国アメリカでは、どんな名前であれ、成功の妨げにならないと信じていたのです。  両親は裕福でないにもかかわらず私にこの国の最高学府で学んで欲しいと望みました。寛大の国アメリカでは、可能性を追求するのに金持ちである必要はないと信じていたのです。  父も母も他界しました。でも、私は、今夜、両親は天国から誇らしげに私を見てくれていると思います。 私が受け継いだ多様性に感謝し、私の両親の夢が私の二人の愛する娘に受け継がれたことを意識しながら、両親とともに私は今日ここに立っています。  私の人生の物語はアメリカの大きな物語の一部である事、そして、先人たちに多大な恩義がある事、さらには、私のような人生は地球上の他の国では起こり得ないことを意識しながら、私は今日ここに立っています  今夜、私たちは、この国の偉大さを実感するために集まりました。この国の偉大さはビルの高さや軍隊の強さや経済の大きさによるものではないのです。  私たちの誇りは、200年前以上前に起草された宣言の中に集約されたとてもシンプルな文章に基づいています。それは「われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということ」というあの一文です。  ささやかな夢、小さな奇跡への渇望、それがアメリカの本質なのです  アメリカの本質とは、夜に子供たちを静かに寝かしつけられ、子どもが衣食に恵まれ安全に暮らせることなのです。  アメリカの本質とは、「おや?誰か来たようだ」という心配なしに、自由にものが言え、自由にものを書けることなのです。  アメリカの本質とは、賄賂なんて払わずとも、アイデアさえあれば自分たちでビジネスを始められることなのです。  アメリカの本質とは、報復になんか恐れる必要なく政治プロセスに参加できることなのです。そして、ほとんどの場合、我々の投票はちゃんと活かされるということなんです。  今年、この選挙戦において、私たちは、我々自身の価値観と責務を再確認し、厳しい現実に直面してもそれを固守し、そして、先人たちの伝説と将来の世代に対する約束をもう一度断言する必要性に迫られています。  親愛なるアメリカのみなさん。民主党員、共和党員、無党派に関わらず、はっきり申し上げましょう。我々にはやらねばならぬことがあると。  メイタグ社の工場がメキシコに移転したため仕事を失い、自分たちの子どもと時給7ドルの仕事を奪い合うことになったイリノイ州ゲイルズバーグの労働者のために、やらなければならないことがあるのです。  頼っていた医療給付金なしで息子に与える月4500ドルの薬代をどうやって支払おうか頭を悩ませているのに、仕事を失い涙をのんでいる父親のために、やらなければならないことがあるのです。  高校を卒業しやる気も意思もあるのに、お金がないために大学にいけないイーストセントルイスの若い女性や同じ状況にいる何千人もの女性のために、やらなければならないことがあるのです (中略)  もしシカゴの南部に字が読めない子どもがいれば、その子がたとえ自分の子どもではなくとも、私にとっての問題なのです。もし処方箋薬を支払えず医療費か家賃かを選ばなければならない老人がいれば、彼女がたとえ自分の祖母でなくても、それは私にとって悲しい出来事なのです。逮捕されたのに弁護士に恵まれなかったり法手続きがが保障されないアラブ系の家族がいたとすれば、それは私の公民権さえをも脅かすのです。 (中略)  こうして我々が話をしている最中にも、我々を分断しようとする連中がいます。アメリカの政治をなんでもアリにしたがる、皮肉で中傷好きな広告屋です。今夜、その連中にはっきり言いましょう。リベラルのアメリカや保守のアメリカがあるわけではないのだと。ただ、アメリカ合衆国があるだけだと。黒人のアメリカや白人のアメリカ、ラティーノのアメリカ、アジア系のアメリカがあるわけではないのだと。ただアメリカ合衆国があるだけだと。評論家たちはこの国を共和党寄りの「レッドステート」と民主党寄りの「ブルーステート」に切り刻みたいようです。彼らに対しても言わなければいけないことがあります。  民主党支持が強い州でもあの素晴らしい神は信仰されているし、共和党支持の強い州でも図書館利用者を監視する連邦捜査官は嫌われてるんです。  民主党の強い州でもリトルリーグが人気だし、共和党の強い州にも同性愛者の友達はたくさんいるんです。。イラク戦争に反対した愛国者がいる一方で、それを支持した愛国者もいるんです。  私たちは一つなんです。みなが星条旗に忠誠を誓い、みなで合衆国を守っているのです。 (中断)  みなさん!  今夜、みなさんが、私と同じ活力を持ち、私と同じ危機感を持ち、私と同じ情熱を持ち、私と同じ希望を持っているならば、そして私たちがやらねばならぬことをやり遂げるのならば、フロリダからオレゴンまで、ワシントンからメインまで、全米の人々は11月に決起し、ジョン・ケリーは大統領に、ジョン・エドワーズは副大統領に選任されるに違いありません。この国は希望を取り戻し、長く続いた政治の暗闇から抜け、輝かしい未来がやってくるに違いありません。  ありがとう!  ありがとう!  神の祝福あらんことを!  以上、丸山和也の発言とバラクオバマの演説を併記した。  いささか残酷なことをしたかも知らない。オバマの演説に丸山和也の言葉を並べるのは、横綱の相撲とちびっこ相撲を並べたようでもある。  しかし併記したことで、丸山和也の発言が、自らの職責を放棄し、絶望を語り、絶望の先に祖国を売り渡す発言であり、さらには事実誤認に基づくものであることが判明したはずだ。さらに、オバマの演説が、希望を語り、自らの責任を言明し、祖国を守る意志を表明するものであることも、際立ったはずだ。  事実誤認な見解を得意げな表情で開陳するくせに絶望と職責放棄を臆面もなく開陳する政治家。夢と希望を語り、職責を全うすることを訴える政治家。  両者のうち、政治家たる資格に欠けるのはどちらであるか、もはや明白であろう。 <文・翻訳/菅野完(Twitter ID:@noiehoie
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている
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