すしざんまいが救いきれなかったソマリア海賊の微妙な転職先

 もともと、ソマリア沖はマグロをはじめ、世界的にも水産資源が豊富なエリアとして知られている。だが、内戦が勃発後、漁業水域が曖昧になり、先進国からやってきた漁船軍団がソマリア沖に来て、不法な漁業を繰り返し、地元漁民の生活を圧迫し続けてきた。  外国船の乱獲により生態系が破壊されている上、地元漁民たちの生活の糧となる水産資源が根こそぎ持って行かれてしまうため、地元漁民にとっての経済的被害も拡大。現在、地元住民は、海賊だけでなく、これら不法な漁船の取り締まりを希望しているが、その被害は拡大する一方だという。  また、ソマリア沖でもうひとつ問題視されているのが先進国から持ち運ばれる産業廃棄物の不法投棄だ。ソマリアでは、1990年代頃から、有害な産業廃棄物や医療廃棄物の投棄も多数おこなわれてきた。これにより、ソマリア沖の生態系が汚染され、ソマリア漁民や水産資源に甚大なるダメージを与えている。  東京大学教授・遠藤貢氏の著書『崩壊国家と国際安全保障』によれば、外国船によってもたらされる違法漁業などから自国の海洋資源を守るため、海賊へと「転職」した漁民もいるとの分析もある。現状、こうしたソマリアを取り巻く現状の根本的な改善がおこなわれていない以上、いつ海賊行為が再開されるとも限らない。  なお、海賊行為の発生件数が減ったことで、以前に比べて運航船の警戒が薄れつつある上、2016年12月に欧州連合海軍部隊のソマリア沖派遣期限が切れるため、このタイミングを狙って再びソマリア海賊が復活する可能性も低くはないとの声もある。  国際海事局(IMB)海賊情報センターのポッテンガル・ムクンダン局長も、昨年の海賊発生件数減少を楽観視せず、「いまだにソマリア沖の運航リスクは高く、いつ海賊行為が再開するとも限らない」と注意喚起を呼びかけている。  一見沈静化したかのように見えるソマリア海賊だが、その火種はまだまだ当分は燃え尽きそうもない。<文/HBO取材班>
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