刑事告発が噂される東芝不正会計事件の本当の問題点

 2015年で最大の経済事件といえば、東芝の不正会計問題に違いない。5月に突然、第三者委員会を設置すると発表して以降、ズルズルと決算発表を遅らせ、7月に調査報告書が発表されると会長、社長ほか取締役8人が即日辞任。最終的に過去7年間の決算で税引き前利益を合わせて2248億円もかさ上げしていたことが明らかになった。12月には金融庁が過去最高となる73億円の課徴金命令を下した東芝事件の裏側を闇株新聞氏がひもとく。
東芝

写真/産経新聞社

 振り返っておきますと、東芝は2015年5月8日の取引終了後に「第三者委員会設置のお知らせ」と「業績予想の修正に関するお知らせ」「剰余金の配当(期末)に関するお知らせ」を同時にリリース。一部のインフラ工事の原価が過小に見積もられていたため、引当金を含む工事損失が適時計上されていないことが判明し、そのために中立・公正な外部の専門家から構成される第三者委員会を設置して真相究明にあたる、という内容でした。  また、その調査結果を受けて業績を修正せねばならないために、決算発表も大幅に遅らせることになりました。  この当初の対応については詳細を省きますが、本来は6月30日までに提出しなくてはならなかった2015年3月期の有価証券報告書を、東芝はたびたび延期。最終的に、期限から2か月以上も遅れて9月7日に2015年3月期の決算発表を行いました。  通常であれば、1か月遅れるだけで、上場廃止を免れない事案ではありますが、どこぞの機関(関東財務局のはずですが、東芝側は明らかにしていません)は東芝側の「提出期限を延長してください」という申請に対して、ものの1時間程度で2度にわたって「OK」を出しています。この時点で、東芝の上場を維持するための“出来レース”は確定していたわけです。  7月に発表された第三者委員会の調査報告書からも、出来レースであることは明らかでした。2008年度から2014年4~12月期決算までに累1518億円の「不適切な利益のかさ上げ」があったことを明らかにし、その背景にはトップから厳しい目標を掲げられながらも上司には逆らえない企業風土があった、というわかりやすい動機に言及していました。  その結果、田中久雄社長と佐々木則夫副会長を含む取締役8人が即日で辞任。一見すると厳しい処分が下されたように見えますが、明らかな粉飾決算であるにもかかわらず、調査報告書は「刑事責任」については触れていませんでした。  その報告書を受けた証券取引等監視委員会も、東芝に課徴金を課すよう金融等に勧告しただけ。その額は73億円と、過去最高額ではありましたが、行政処分を下したうえに、刑事事件化した例はありません。証取委が東芝の刑事告発を巡って東京地検特捜部と協議する方針を固めた、とする報道もありますが、騒動発覚から一貫して「粉飾」でなく、「不適切会計」で通してきた点などを見ると、ハードルは高いと見ています。これで、幕引きとなる可能性のほうが高いでしょう。  しかし、行政処分と前後して、新たな問題が浮上しました。『日経ビジネス』がスクープした、東芝の米原子力子会社ウェスティングハウス(WH)を巡る会計処理です。  それまでに東芝は不正会計処理を受けて、過去7年間で2248億円もの決算修正に追い込まれ、11月に発表された2015年4~9月期決算では新たにPOS事業で巨額の減損処理を行い、905億円もの営業赤字に転落しました。このとき、WHの事業は好調で減損の必要がないと繰り返し説明をしていたのですが、それがまったくのウソだったわけです。  東芝は2006年に5400億円でWHを買収し、その後6600億円まで追加出資しています。そのうち4000億円以上が純資産価格を上回る「のれん代」だったはずで、業績が悪化すればそののれん代の減損は避けられません。事実、WHは単体決算で2012年度に9億2600万ドル、2013年度に4億ドルと、円換算で1600億円もの減損処理を行っていながら、東芝は「会計ルール上問題ない」として開示しませんでした(12月21日には最終純損益が5500億円の赤字という、2016年3月期業績予想を発表しましたが、ここでもWHの減損処理は見送った)。  確かに、「会計ルール上は問題ない」かもしれません。ソフトバンクも巨額赤字決算が続いているスプリントの減損処理をまったく行っていません。業績回復の見込みがある、という理由です。しかし、東芝は、不正会計問題の渦中にある企業です。コンプライアンスの強化を図るべき状況で、WHの減損処理を行わなかったというのは、悪質と言わざるをえません。  事実、日経ビジネスの記事では、意図的にWHの減損処理を行わなかったことが明らかにされています。第三者委員会の主要メンバーが東芝の弁護士に対して、WHの減損を含む原子力事業を調査対象に加えるべきか否かを確認し、「会社の意向に沿って」調査の対象に加えなかったというのです。  総論すると、東芝の不正会計は会社から第三者委員会、当局まですべて“グル”になって、問題を矮小化させた事件といえます。これを「悪意を持った粉飾決算」と言わずして、なんというのでしょうか?
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