アート引っ越しセンターを急成長させたネットなき時代のSEO対策

「荷造りご無用~0123♪」でおなじみ「アート引越しセンター」


アート引越センター

アート引越センターHPより

 アートコーポレーションは「荷造りご無用~0123♪」のCMでもおなじみの「アート引越しセンター」を運営する大阪大東市に本社を置く総合運送企業です。グループとしては、近場の引越しを受ける「ダック引越しセンター」を首都圏で展開するほか、国内物流、住宅関連、輸入車販売といった分野で事業を多角運営しており、グループの「アートチャイルドケア」では保育事業もほぼ全国に展開しています。なお、2004年に上場していましたが、2011年にはMBOにより上場を廃止しています。

 創業は1968年で、若い頃はオートレース選手を目指していた寺田寿男氏と妻の千代乃氏によって、前身の寺田運輸として設立されました。当初は寺田氏の確かな運転技術もあり、鋼材の運送等で順調な滑り出しだったものの、オイルショックが直撃、ガソリンが無い、タイヤが買えないという不景気の中、仕事が入ってこなくなり、業態の転換を迫られます。そんなある日、寺田氏は雨の中、トラックが引越しの荷物を積んでいる光景を見かけます。

 実は、その頃は引越し業というのは専業では成り立たない、と思われており、あくまで運送業社の副業レベルであったため、作業中に荷物を盗難されたり、家財道具が雨風にさらされたり、と相当低レベルのものであったようです。一方で調べてみると、当時引越しにかかる費用自体は、大阪で150億円、京都で120億円、神戸で100億円が費やされており、大きな市場と低レベルのサービスというギャップに、引越し業への参入を思いつきます。

藤原紀香主演で実際に連ドラにもなった創業ドラマ


 となるとまず、サービスレベルの向上のためにも、新たに引越し用トラックの確保が必要になったわけですが、得意先が当時としては珍しい週休2日制をとっていたことを利用し、週末の2日だけその得意先向けのアルミバンを水性塗料で「引越し専用車」に上塗りするというアイデアを思いつき、専用トラックの確保に成功します。ちなみに、この得意先は「立石電機」、社名変更前のオムロンです。

 そして、今度は陸運局に「引越取扱い業」の免許申請に行きますが「引越では食べていけないでしょう、食べていけない仕事を受理は出来ません」と却下されてしまいます。そこで、付き合いのある取引先や知り合いにお願いして「もし引越が発生したらこの会社に頼みますよ」という仮契約書を結んでもらい、こちらも何とか「引越取扱い業」の免許を受理してもらいます。

 このような苦労の末、1977年にアート引越センター株式会社を設立したわけですが、この際、引越し等の家庭に関することは女性決定権があることが多いという点から、アイデアも豊富な千代乃氏が社長になり、女性のニーズに細かく対応する、という経営体制に移行します。ここら辺の創業のエピソードは、同社の創業をモデルにして藤原紀香主演で2003年に制作された連ドラ「あなたの人生お運びします」でも描かれていましたね。

創意工夫に溢れる「サービス」と「マーケティング」


 こうして、当時ほとんど前例のない引越し取扱い専業に乗り出した同社は、現在では引越し業界の当たり前になっているようなサービスも含め、次々と「あったらいいな」を打ち出していきました。「奥様荷造りご無用」を皮切りに「走る殺虫サービス」「新居での靴下履き替え」「荷解きから公共料金手続きまでワンストップ」「全員女性スタッフのレディースパック」「60歳以上が対象のシニアパック」「食器を簡単に収納できるエコ楽ボックス」等々、その他にも「客室付き引越し専用車」「自家用車の同時輸送車」といった特別車両の開発も行っています。また、新しいサービスを発案すると、すぐに実用新案権を取得する強かな一面もありました。

 上記のように、次々と顧客のニーズに応えるサービスを打ち出していった同社ですが、当然最初は、従来の運送業とは違い、いつどの人が顧客になるのかが分からないわけで、まずは知名度を上げる必要がありました。そこで、インターネットも存在しない当時、引越しを考えた人が行き着く手段が「電話帳」であり、その一番最初に来る文字が「ア」であることに気づき「アート引越しセンター」を社名にしたという由来は有名です。オフライン時代のSEO対策、といってもいいかもしれません。ちなみに後から「貨物を運ぶのではなく、美術品を運ぶように扱う」という意味も添えられてたりはしますが、さすがにやや苦しいですね(笑)。

 上記のエピソードは有名ですが、その他にも同社は創意工夫を凝らしたマーケティングを行っており、例えば「0123」の電話番号もそうです。同社はこの番号を、自由に番号申請できるようになる以前から、地道に収集を行い、実に国内で500以上保有しています。これらの電話番号は覚えやすさ、掛けやすさは「0123」からの「アート引越センターへ~♪」というブランディングにも有効に働いています。

 そして、その「0123」の威力を増大させたのが、冒頭でも触れたお馴染みのCMですね。今でこそ、当たり前のように見かける引越会社のCMですが、上記で触れた通り、引越業がまだ今のような一大産業になっていない頃であり、初めて同社がCMを打った時の売上は3億円だったことを考えると、これは相当大きな賭けだったことが伺えます。しかし、同社はこの賭けにも見事に勝ち、売上を一気に11億円にまで伸ばし、その後も成長を続け、現在では売上600億円、経常利益40億円を超える企業にまで成長しました。

第39期決算公告 12月21日官報96頁より
売上高()内は前年比 628億8672万円(+4%、企業サイトより
経常利益()内は前年比 43億2831万円(+2%)
当期純利益()内は前年比 32億2953万円(+3%)
利益剰余金 153億5864万円
過去の決算情報 詳しくはこちら(http://nokizal.com/company/show/id/1132263#flst)

今でも参考になる限られたリソースでの戦い方


 こうして同社の創意工夫の歴史を見ていると、大きな市場と既存サービスのギャップの発見、顧客の声に応えるサービスを次々と投入、プル型のSEO対策から成約率の高い手段(電話番号)の確保、そして思い切った資金調達からのTVCM、と結果的に現在のWeb業界等でも良く見かける流れにも見えるのが面白いところです。

 最後に、もう一つ同社のCMのエピソードを。1995年~2008年頃の同社のCMキャラクターはドラえもんで、覚えている人も多いと思いますが、CMの最後で「電話してね」と締めるのを受けて、ドラえもんと話せると信じた子供による間違い電話が多かったそうで、このCMを見た子供たちが大人になる頃にも、「アート引越センター」はきっと印象に残ってそうですね。

・決算数字の留意事項
基本的に、当期純利益はその期の最終的な損益を、利益剰余金はその期までの累積黒字額or赤字額を示しています。ただし、当期純利益だけでは広告や設備等への投資状況や突発的な損益発生等の個別状況までは把握できないことがあります。また、利益剰余金に関しても、資本金に組み入れることも可能なので、それが少ないorマイナス=良くない状況、とはならないケースもありますので、企業の経営状況の判断基準の一つとしてご利用下さい。

【平野健児(ひらのけんじ)】
1980年京都生まれ、神戸大学文学部日本史科卒。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの『SiteStock』や無料家計簿アプリ『ReceReco』他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業、全国の企業情報(全上場企業3600社、非上場企業25000社以上の業績情報含む)を無料&会員登録不要で提供する、ビジネスマンや就活生向けのカジュアルな企業情報ダッシュボードアプリ『NOKIZAL(ノキザル)』を立ち上げ、運営中。


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