「白い恋人」売上げ80億円を支えるマーケティング戦略、攻めの歴史

北海道の定番土産といえば「白い恋人」


 石屋製菓は、北海道のお土産でおなじみ「白い恋人」やバウムクーヘンなどの各種菓子、ケーキなどのお菓子メーカーで、1947年に創業者の石水幸安氏により、政府委託の澱粉加工業として創業されています。創業時は駄菓子製造を行っていましたが、本州で大量生産された駄菓子が北海道に流入してくると、路線の転換を余儀なくされ、高級菓子製造へ事業を変更、1971年には、小麦粉、鶏卵、バターなど高級原材料を使用したクッキー(ラング・ド・シャ)「シェルター」をヒットさせました。

写真/ kazamatsuri

 そしてその頃、かの六花亭のホワイトチョコレートもまた人気を博しており、石水幸安氏の長男で、後の社長の石水勲氏の「ホワイトチョコレートがべとつかずに食べられる方法はないだろうか」という着想から、ホワイトチョコレートをラング・ド・シャで挟んだ商品の開発に着手します。ちなみに、アイデア自体は単純そうですが、例えば開発当初、2枚のクッキーの間にチョコを流し込んでいたところ、流したチョコがクッキーの端まで行き渡らない弱点があり、あらかじめ四角に固めたチョコを焼き上げたばかりのクッキーで挟んで余熱で伸ばすことで、それを実現するといった細かい工夫が積み重ねられています。

プレミアム感を重視したマーケティング戦略


 こうして、1976年12月に販売を開始した「白い恋人」ですが、マーケティング面でもかなりユニークな戦略をとっています。現在でも「地元のものは地元に来て買ってもらうことにより、北海道銘菓としての魅力を維持し続けられる」というブランド戦略の下、あくまで販売のベースを北海道に限定し、成田国際空港制限エリア内の免税店等の一部例外や物産展などを除いて道外での販売は行っていないというのは知られていますが、実は価格も現在に至るまで一度しか変更しておらず、当時の物価からすれば、かなり挑戦的なブランド路線だったことが伺えますね。

 しかし、「白い恋人」のマーケティングが面白いのは、こうした一見固めのブランド戦略をとる一方で、飛び道具的な展開も駆使していることです。上記の路線で、札幌市内の有名百貨店との取引を苦労の末、獲得していった石水氏は次に飛行機の機内食に着目します。その後の行動は実にアグレッシブで、普通に千歳空港の全日空チケット・カウンターに出かけて行き、機内食の商品仕入担当部署を尋ね「御社のキャンペーンにピッタリの商品を、作って来たので試食して欲しい」と売り込みをかけます。

「でっかいどう。北海道」で一気に全国区へ


 名前すら知らない小さな会社の突然の売り込みに当時の担当者はとまどいつつも、「白い恋人」の出来を評価して真摯に対応し、会社の見学を申し入れます。石水氏は、一週間の猶予を貰うと、早速雑然とした工場の改修に取りかかりますが、業者に委託するほど経済的余裕はなく、社員総出で掃除や整理整頓、汚れた壁や天井にペンキを塗って取り繕います。全日空の担当者も、一途に取り組む姿勢を評価し、1977年10月に2週間限定で機内サービスに採用します。

 その結果、パッケージ裏に印刷しておいた電話番号に問い合わせが殺到、その実績により翌年にも機内サービスに採用されことになります。そして、その年全日空が始めた名コピー「でっかいどう。北海道」で知られる北海道旅行の促進キャンペーンに見事にはまり、「白い恋人」は一気に全国区のお菓子へと駆け上がっていきます。

第55期決算公告 8月24日官報より


売上高:131億3700万円(企業サイトより)
当期純利益:10億4518万円(前年比+115%)
利益剰余金:177億3740万円

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 こうして4P戦略でいうところの「Product(美味しい)」「Place(北海道限定)」「Price(高級路線)」「Promotion(機内販売)」を見事に成功させた「白い恋人」はその後も着実に成長を続け、現在では年間2.2億枚、売上にして約80億円を叩き出す、石屋製菓の看板商品として同社を支えており、2007年には賞味期限改ざん問題を引き起こして、石屋製菓は「白い恋人」発売以来初の赤字に転落する危機もありましたが、直近の決算では純利益が10億円を超えるなど強いブランド力で見事に持ち直し、最近では新たに訪日中国人の爆買い対象としてインバウンド需要も取り込んでいます。

なんと、全都道府県に存在する類似品


 そんな圧倒的な知名度を誇る「白い恋人」ですが、賞味期限改ざん問題以外で世間の注目を浴びたケースでは、全国の類似品問題がありました。何と現在では「●●の恋人」という似た内容の商品が全都道府県に存在すると言われ、基本的にはずっと大人の対応で静観を続けていた同社でしたが、2011年に吉本興業の子会社が販売していた「面白い恋人」に対して、商標権侵害や不正競争防止法で販売禁止と破棄を求めました。ちなみに、これが全国ニュースになったことで「面白い恋人」の売上が提訴前の8倍に伸びて、その売上に対しても損害賠償を求めるといった割とカオスな状況に陥っています。一応、提訴の2年後に「面白い恋人」のパッケージ変更と販売地域を関西に限定することで両社に和解が成立しています。

 確かに、これほど時間をかけて培ってきたブランドを利用されてはたまったものではないという主張は当然ですし、「白い恋人」も「白い恋人達」も同社が商標登録しています。そして、開発時に勲氏がネーミングに悩んで(「ブリザード」になっていた可能性もあるそうです)いたところ、趣味の歩くスキーから帰った創業者の幸安氏が雪が降ってきたことを「白い恋人達が降りてきたぞ」と表現したことから名付けられたエピソードは有名で、実にブランドに相応しいロマンチックなものだと思います。

 しかし一方で、少し意地悪な見方をすると、1968年グルノーブルオリンピックの記録映画「白い恋人たち」が日本でもヒット(テーマ曲も有名で、桑田佳祐のヒット曲名もこちら由来です)していたことを考えると、果たしてオリジナルとは何か、ちょっと考えるところではあります。ただ、これをもって「白い恋人」か「黒い恋人」か、どっちと聞かれれば、個人的には歴史ある「白」を選びますけどね(笑)

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・決算数字の留意事項
基本的に、当期純利益はその期の最終的な損益を、利益剰余金はその期までの累積黒字額or赤字額を示しています。ただし、当期純利益だけでは広告や設備等への投資状況や突発的な損益発生等の個別状況までは把握できないことがあります。また、利益剰余金に関しても、資本金に組み入れることも可能なので、それが少ないorマイナス=良くない状況、とはならないケースもありますので、企業の経営状況の判断基準の一つとしてご利用下さい。

【平野健児(ひらのけんじ)】
1980年京都生まれ、神戸大学文学部日本史科卒。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの『SiteStock』や無料家計簿アプリ『ReceReco』他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業、全国の企業情報(全上場企業3600社、非上場企業25000社以上の業績情報含む)を無料&会員登録不要で提供する、ビジネスマンや就活生向けのカジュアルな企業情報ダッシュボードアプリ『NOKIZAL(ノキザル)』を立ち上げ、運営中。


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