なぜ選択的夫婦別姓は最高裁で退けられたのか――シリーズ【草の根保守の蠢動 番外編6】

photo by つ on WikimediaCommons(CC BY-SA 3.0)

民法733条
1.女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2.女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。

民法750条
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。


 16日、この2つの民法の規定に対して、最高裁の判断が下った。

・離婚した男女のうち女性にのみ6ヶ月もの再婚禁止期間を義務づけている民法733条の規定に対しては「違憲」
・婚姻に当たって、夫婦は必ずどちらかの姓(民法上の語用では「氏」)に合わせなければならない「夫婦同姓」を義務づけている民法750条の規定に対しては「合憲」

 極めて鮮やかな対比だ。

 ちなみに、最高裁が法の規定に対し明確に違憲判断を示し、法改正を促すのは戦後10例目。「再婚期間」を定める民法733条問題に関しては、まさに歴史的な判決となった。

 しかしなぜ、夫婦別姓は認められなかったのか?

 裁判官の内、女性が3人しかいなかったことも報じられたが、果たしてジェンダーギャップだけが原因なのだろうか?

「離婚期間」は違憲性が認められ、「夫婦同姓義務」については違憲性が認められなかった今回の最高裁の判断については、様々な見方が提示されている。そのうち最も多いのが、女性判事が全員「夫婦同姓義務」について違憲判断を下した点に注目した、「性差」に基づいた見方だろう。

参照:夫婦別姓の禁止」は合憲と最高裁判断 女性裁判官3人は違憲(FNNニュース)

 最高裁大法廷の判事は十五名。そのうち五名が「夫婦同姓義務」に違憲判断を出した。確かに女性判事三名は全員違憲としているが、男性判事二名も違憲判断を示している。また、同じ法廷が「離婚期間」については、性差関係なく多数意見として違憲判断を下している。性差だけでは説明が付かないだろう。

 ここで注目したいのが、日本会議の動きだ。

「夫婦別姓阻止」にかける、日本会議の情熱


 最高裁の判断まで、日本会議の影響を考えるのはいささか陰謀論めいているとお叱りを頂戴するかもしれない。しかし、事実として日本会議界隈は、「夫婦別姓阻止」を、領土問題や教科書問題以上と言っていい熱意で長年にわたり取り組んできたのだ。

日本会議公式サイトより

 まずは、日本会議の公式サイトに装備されたタグクラウドを見ていただきたい。タグクラウドとは、「そのサイトで利用される語句の出現頻度と更新頻度」を、フォントの大小と濃淡で表示する仕組みだ。出現頻度が高い文字は大きく表示され、最近登場した語句は濃く表示される。

⇒【画像】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=72285

「ブラジル」が大きく濃く表示されているのは、直近に、ブラジル日本会議の活動内容を紹介する記事が公式サイトに立て続き投稿されたためである。

 この「ブラジル」を除けば、「夫婦別姓」が尖閣諸島や憲法改正などと並んで、高頻度で利用されていることがわかる。事実、彼らの公式サイトにはご丁寧にも、「夫婦別姓」のためだけのコーナーが設けられている。

そして彼らは、夫婦別姓阻止をネット上で訴えたり、文書を配布したりするだけでなく、極めて熱烈な運動も展開している。

 2010年、日本会議は夫婦別姓阻止の運動を行うフロント団体として「夫婦別姓に反対し家族の絆を守る国民委員会」を結成した。発起人は、櫻井よしこ、長谷川三千子、工藤美代子などなどのおなじみの顔ぶれ。同委員会は200万筆の一般署名を集め国会議員の賛同人も百名を獲得するといった運動成果を短期間に叩き出している。2010年3月に東京ビッグサイトで開催された「夫婦別姓に反対し家族の絆を守る国民大会」には、全国から5000人を超す参加者が集まったという。この大会に登壇した政治家も、亀井静香、平沼赳夫、下村博文、衛藤晟一と、いつもの顔ぶれである。

 この連載の読者ならもうお気づきだろう。

 この運動手法は「元号法制定運動」から彼らが得意とする「国民運動」の手法だ。上述の「国民大会」の運営も、先日詳細にリポートした、「改憲一万人集会」と全く同じ。彼らは、「元号法制定運動」の成功以降、失敗知らずのこの手法で、立法府に圧力をかけ続けているのだ。

 さらに見逃せないのが、日本会議の会長は、歴代、最高裁元長官が就任してきた事実だ。

 日本会議界隈がその成功体験を初めて味わったのは、上述の通り「元号法制定運動」だ。この運動のために当時の界隈が1978年に設立したのが「元号法制化国民会議」。この「国民会議」はのちに、「日本を守る国民会議」と名称を変更し、日本会議の前身の一つとなる。この団体の設立に並々ならぬ情熱を燃やし、初代会長に就任したのは、最高裁長官を退官したばかりの石田和外だった。また、2001年から今年2015年まで、14年間もの長きにわたって、日本会議会長を務めていたのは、元最高裁長官の三好達。三好は今も、「美しい日本の憲法を作る国民の会」の共同代表を務めており、第一線から退いたわけではない。このように、日本会議と最高裁は、人事面で何かとつながりがある点に、留意が必要だろう。このままいけば、今回の大法廷を代表した寺田長官が、退官後、日本会議会長に収まるのも不自然ではない勢いだ。

主戦場は国会にうつったが。。。


 今回最高裁が示した判決は読みようによれば、「こういう話は国会で議論して、国会の立法行為として処理してくれ」と解釈できるものだ。事実、最高裁は「違憲とする根拠がない」という見解を示しただけであり、また、選択的夫婦別姓について憲法上の問題があると指摘したわけでもない。今後、必然的に議論の場は国会に移るだろう。

 しかし、上述のように、日本会議は並々ならぬ情熱を傾けて「夫婦別姓阻止」の運動を展開し続けている。そして、連載で指摘したように、日本会議と日本政策研究センターに代表される「一群の人々」は、「憲法改正の目標は、憲法9条ではなく、緊急事態条項と家族条項の追加だ」という主張を強めている。安倍政権がこの意見と共同歩調をとっているのも連載で振り返った通りだ。

 と、すると、国会での議論は難航が予想される。おそらく日本会議界隈は、憲法24条を変えるという彼らの憲法改正目標を視野に含めて、強固な運動を展開してくるだろう。

 16日の最高裁判断で一旦の区切りを見せた「夫婦別姓」議論だが、日本会議界隈のこれまでの運動実態や、家族条項の追加こそ彼らの憲法改正目標である点を踏まえると、今後ますます目が離せないものとなるだろう。

<取材・文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>


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