パリ同時多発テロで周辺国に波及する排外主義。ドイツでも大規模な集会

4月にドレスデンで行われたペギーダのデモ photo by Metropolico.org (CC BY-SA 2.0)

 11月13日のパリでの同時多発テロを受けて、ドイツでは西欧のイスラム化に反対する組織ペギーダ(Pegida 欧州愛国主義者)による反イスラム・反移民を訴える抗議運動が再燃している。11月16日にはドレスデンで1万人以上が集まって反イスラムを訴えたという。その集会では、メルケル首相が難民を無制限に受け入れてきたことに、一部の参加者は〈「メルケルはもう退陣しろ」〉と叫んで抗議したという。今回の抗議がより加熱気味だったのは、上述多発テロでドイツ人が二人亡くなったいるのも理由としてある。(参照『El Pais』)  メルケル首相が中東のシリアやイラクからの難民を容易に受け入れる姿勢を示して来たのは、勿論人道的な意味合いもあるが、根底には将来のドイツの労働人口の減少を懸念して、それを補うには若い難民労働力はドイツの将来に都合が良いという理由からだ。しかも、企業連合も安い労賃で雇える難民の受け入れを歓迎している。また彼らを受け入れるだけの職場は充分にあるという。  元々、ドイツは第2次世界大戦後、多くの外国移民を受け入れることによって不足していた労働力を補填してきたという経験がある。特にトルコ移民はその顕著な例である。現在のドイツ人口 8,300万人内の5人にひとりは移民者或いはその2世、3世によって構成されているという。世界で最強チームのひとつ、ドイツサッカー代表選手にもトルコ移民2世や3世が多く活躍してきた。  こうした情勢に不満を抱いていた層が、フランスでのテロを受けてさらに拡大し、一気に噴出したと言える。  もちろん、テロとイスラム教はそもそも関連性がなかった。しかし、一部のテロリスト集団が、イスラムの教義を巧みに、テロ活動の動機付けとして利用してきた。そのため、今では紛争地から逃れようとして外国に避難した本来の一般市民までテロリストだと疑いを掛けられるまでになっている。しかし、これもまたテロリストたちは巧妙に利用しており、難民の中に混ってヨーロッパに流入しようとしているテロリストもいる。11月18日付の米国電子紙『HispanTV』はドイツから過激派組織「イスラム国」(IS)で戦闘員として戦った〈ドイツ人テロリスト250人がドイツに戻っている〉と報じている。  この様な背景がある中で、メルケル首相は中東からの難民を無制限に受け入れて来た。そのため、この姿勢は彼女の政治的な立場も危うくしつつあった。というのも、連立政権を構成しているバイエルン・キリスト教社会同盟(CSU)が、メルケル首相(キリスト教民主同盟=CDU)が進める難民受け入れの方針に反対して一時連立政権の維持が危ぶまれたこともあるのだ。CSUが反対した理由は明らかで、彼らが選挙地盤としている地方にオーストリアを経由してドイツに流入しようとする難民が急増しており、それが過剰な人数にまで膨れあがった状態になっていたからだ。  しかし、両党は協議の末、全国に難民コントロールセンターを5か所設けることに決め、そこで難民の素姓を検査し、入国させるか本国に送還するか決めるとするという案で合意した。この設置で、CSUは今後の展開を観るということで了解した形となった。これで両党の亀裂は当面は消滅した。当面の軋轢は避けられたものの、メルケル首相がこれまで有していた国民からの支持率は下がっている。  そして冒頭のペギーダによる大規模な集会である。こうした排外主義の台頭は、下手をすれば今後ドイツでもテロが起こり得る可能性を高めたとも言える。求心力が低下しつつあるメルケル首相は、今後さらに難しい綱渡りを強いられそうだ。 <文/白石和幸 photo by Metropolico.org on flickr (CC BY-SA 2.0)> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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