「先制攻撃」さえ認める安倍解釈改憲に潜む日本会議&日本青年協議会の深謀遠慮――シリーズ【草の根保守の蠢動 第12回】

 いよいよ参議院で安保法制の審議が始まった。審議は冒頭から波乱含みだ。28日に開催された「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」では、安倍晋三首相が、民主党・大塚耕平議員の質問に対し、「日本に対する直接的な攻撃意思を表明していない場合でも、集団的自衛権の発動はありうる」と答弁し、事実上、「先制攻撃」を認める格好となった。(参照:琉球新報)  おおよそ、憲法の条文をどう読んでも「集団的自衛権」も「先制攻撃」も容認できるはずがない。やるならやるで、憲法を変えてからやるべきだと、筆者などは思うのだが、どうやら政権は全て「憲法解釈の変更」で乗り切るらしい。  これでは、憲法は骨抜きになってしまう。骨抜きになって否定されるのは、昭和憲法だけではない。「憲法を政府こそが守らなければならない」という立憲主義の根幹まで溶けてなくってしまうだろう。

安倍発言に垣間見える「反憲」テーゼ

 この連載ではこれまで、連載第5回や塚田穂高氏の対談記事のこの回(https://hbol.jp/49520)やこの回(https://hbol.jp/49526)などで、日本会議のコアが日本青年協議会であること、および、日本青年協議会が、70年安保の時代に、「民族派の全学連」を目指して結成された全国学協の社会人組織として結成されたこと、そして、全国学協および日本青年協議会が、「生長の家学生運動」を母体として結成されたことをお伝えしてきた。
日青協ビル

同じフロアに同居している

 日本青年協議会は、現在、日本会議の事務局をつとめており、日本会議の本部と日本青年協議会は、東京都目黒区にあるオフィスビルの同じフロアに入居している。  また、日本青年協議会の会長・椛島有三氏は、日本会議の事務総長をつとめている。これらの事実にのっとれば、日本会議と日本青年協議会は密接不可分な関係にあるといっても過言ではなかろう。  日本青年協議会は、全国学協の社会人組織として発足しながら発足直後の1973年(昭和48年)に全国学協から除名処分をうける(その経緯については後日詳述)。学生組織からの後ろ盾を失った日本青年協議会は、自前の学生運動組織を結成する必要に迫られた。そして結成されたのが「反憲法学生委員会全国連合」、略称、「反憲学連」だ。  つまり、1973年(昭和48年)以降、連載第5回でお伝えした「長崎大学学園正常化運動」からはじまる椛島有三が率いる路線は、「生長の家」と日本青年協議会と、反憲学連の三枚看板で運動を展開することとなったわけだ。 「反憲法学生委員会全国連合」の名前が指し示すとおり、民族派といえども彼らの狙いは、「憲法改正」ではない。あくまでも「反憲法」なのだ。 「反憲法」とは、つまるところ、「現行憲法を徹底的に否定する」という点にポイントがある。この地点からは、「昭和憲法を昭和憲法の改憲規定に基づいて改憲する」という手法さえ否定される。もし昭和憲法の規定に基づいて改憲などすれば、それは畢竟、昭和憲法を憲法として認めてしまうことになってしまう。昭和憲法を呪詛し続けた生長の家の創始者・谷口雅春の愛弟子を自称する彼らにとって、それは絶対的に避けねばならない路線であった。だからこそ、彼らは「改憲」ではなく「反憲」を唱えたのだ

昭和50年代から用意されていた「反憲」のシナリオ

神国への構想 筆者は今回、この「反憲路線」を解説する、昭和50年当時の「生長の家」(※1) 教団内の内部資料を入手した。  谷口雅春の書籍を古本屋で買いあさっていた筆者が偶然、古本と古本の間からみつけた「神国への構想」と題されたこのパンフレットは、昭和50年前後、「反憲学連」「日本青年協議会」そしてその母体たる「生長の家青年会」の政治目標を信者に解説するものだった。  すこし長いが、その一節を引用しよう。 “占領憲法体制の解体は、何よりその成立の暴虐的過程を糾弾し、占領軍の強制々定のあり方が、大日本帝国憲法に於ける法的違反および、国際法違反であることももって正統憲法復元を克ち獲らなければならないが、そのためには復憲の大義に、自己生命を捨て得る内閣総理大臣の出現(中略)しなければならない” (生長の家青年会 1979)  この箇所など、安倍のような総理大臣を生み出すことが彼らの運動の目標であると言い切っているとも読み取れるのではないだろうか。  また、「神国への構想」は憲法解釈の変更こそが改憲より必要であると力説する。 “それ故、先ず、われらの今日的課題は(中略)、現占領憲法下に於いても可能な限りわが国を防衛する対策を樹て、これ以上失ってはならぬものを死守するために非常なる努力を為さねばならないということである。その第一が、反憲的解釈改憲の”たたかい”に他ならない。”(太字部分筆者) [生長の家青年会 1979] 「反憲的解釈改憲」こそが第一の運動目標であると言い切るこの箇所など、まさに、今の安倍政権がすすめる「憲法解釈変更だけで先制攻撃すら可能」という路線に、筆者にはダブって見えるのだ。

安倍政権がすすめる路線と反憲学連路線の同一性

動脈

衛藤晟一・首相補佐官が日青協の機関誌「祖国と青年」1975年11月号に寄稿した文章

 安倍首相が学生時代に反憲学連に属していたエビデンスは一切ない。一切ないどころか、彼の出身校が成蹊大学であることを考えると、おそらく、高偏差値大学でのオルグをもっぱらとしていた当時の「生長の家」の運動方針からすると、相手にもされなかった可能性が高い。しかし、安倍首相の周りには、日本青年協議会の委員長を務める衛藤晟一・首相補佐官や、「生長の家」教団で、教育宣伝部長まで勤め、目下、「日本政策研究センター」の代表として安倍首相のブレーンを務める伊藤哲夫など、「生長の家ネットワーク」の存在が見え隠れする。衛藤晟一にせよ伊藤哲夫にせよ椛島有三にせよ、生長の家ネットワークに属する人々は、昭和50年前後から、「改憲」ではなく「反憲」こそを掲げて活動してきたのは今回振り返った通りだ。  これらのことから、安倍自民党が目指すものが、「改憲」ではなく「反憲」—つまり、憲法改正ではなく、立憲主義の否定そのものーであると考えるのは、筆者の考えすぎであろうか? ※1:この連載でも繰り返してきたように、現在の「生長の家」は、政治運動から一切手を引いており、日本会議・日本青年協議会とのつながりは一切ない。 <文・写真/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>
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