小泉元首相、父の生まれ故郷・鹿児島県で「原発再稼働阻止」の大熱弁

父の生まれ故郷で「脱原発」講演会

鹿児島市内のホテルで「原発ゼロ社会」の実現を訴える小泉純一郎元首相

 小泉純一郎元首相は6月4日、九州電力「川内原発」(薩摩川内市)のある鹿児島で講演、900人以上が“小泉節”に聞きほれた。  川内原発再稼働が今夏に迫る中での現地入りのきっかけは、地元で熱心に脱原発運動をやっている藤田さんという女性(幼稚園勤務)から「ぜひとも鹿児島に来て運動を盛り上げてほしい」と依頼を受けたことだった。小泉元首相はこう振り返る。 「『鹿児島は九電が川内原発再稼働に熱心で、私が行くと嫌がるのではないか』と言うと、『そんなことはいいです』と。私のふるさとであり、ふるさとを大事にしている皆さんが真剣に自分たちの環境問題を考えておられるということで、『それでは』ということで、『私が日ごろ考えていることをお話して、みなさまの参考にしていただければ』と思って今朝やって参りました」  小泉元首相は神奈川県出身だが、父親の小泉純也元防衛庁長官が南さつま市(旧・加世田市)出身で鹿児島県には思い入れも深い。小泉元首相は、高校野球では神奈川県よりも鹿児島県の代表校を応援するほどだという。

世界一厳しい安全基準というが、一つも発表していない

 講演のタイトルは「日本の歩むべき道」。今年3月11日に行われた被災地4年目の福島講演と同じ名称で一部重なり合う部分もあったが、ご当地ならではエピソードや最近の動きなどを盛り込んだものだった。 「地震だって最近しょっちゅう起きるし、噴火だって想定外の噴火でしょう。御嶽山の噴火にしても他の噴火にしても。桜島の噴火よりも、口永良部島の噴火が大きい。九州には阿蘇もあるし、桜島もある。地震もこの10年間、マグニチュード7前後の地震が5回も起きている。そのたびに原発がストップしている。まず2005年、宮城沖地震。2007年、能登半島地震。同じ時期の2007年10月、新潟中越沖地震。2008年、駿河湾地震。そして2011年、東北沖地震。地震国・日本、火山もいつ噴火するのかわからない。日本は、原発をやってはいけない国なのです」(小泉氏)  川内原発再稼働についても、次のように疑問を提示した。 「つい昨年、『鹿児島の川内原発は新しい基準に合格した、パスした』と原子力規制委員会の委員長は発表しました。『新しい審査に合格したけれども、安全とは申し上げない』と(原子力規制委員会は)言っているのです。原子力規制委員会は何のための組織なのか。政府は『原子力規制委員会の審査をパスしたら安全だ』と再稼働させようとしている。そして、おくびもなく『日本の原発は世界一厳しい安全基準を持っている』と(安倍首相らが)言っているのです。アメリカに比べて、どこが厳しいのか。フランスに対して、どこが厳しいのか。一つも発表していない。それもおかしいですよ」(同)

原発は通常運転時でも、海の生態系を破壊する

『九電と原発』(南方新社)を手に、原発による環境破壊を訴える小泉元首相

 川内原発稼動による環境破壊のマイナス面も指摘した。 「原発はクリーンエネルギーではない。二酸化炭素を出さないのは、核燃料を燃やして電気を供給するところだけです。いかに原発が地域の環境を汚染しているのか。今日はね、鹿児島の南方新社が2009年11月に発行した『九電と原発』という本がある。東京の書店に売っていないから、南方新社に電話をかけて『30冊送ってくれ』と。いろいろ細川さんをはじめ私の知人に配った」(同)  と切り出して、本の内容の一部をこう紹介した。 「仮に川内原発を再稼働した時、あの核燃料を燃やした時、大量に沿岸の海水を吸い取って、パイプを核燃料を燃やしたところに配管をして熱量を下げる。冷やす。そして冷やした後、温水を海に出す。この量が半端ではない。大量の水を沿岸から吸い取ってきて、そしてパイプを通して暖かい温水を出す。取水する時にプランクトンやら微生物を大量に取り込む。長年、やっている(原発を稼働している)と、配管にプランクトンとか海水中の微生物の死骸がたまってしまう。詰まると、水の通りが悪くなる。そこで、この配管に付着した微生物の死骸を取り除くために、塩素系の薬品を使って流している。だから、あの取水された海、排出された海の生態系が変わってくる。

講演後も”小泉節”は続く。記者会見は30分にも及んだ

 世界各地に火力発電所や原発が沿岸にあるということは海水の温度を高めているのです。地球温暖化は二酸化炭素だけではない。考えれば考えるほど、勉強すればするほど、『原発がクリーンエネルギー』なんていうのはとんでもないですね。金まみれでコストがかかるし、環境を汚染する”環境汚染産業”ですよ」(同) 「自然エネルギー推進会議」の発起人で、細川護煕元首相とともに脱原発・再稼働阻止を訴え続けている小泉元首相。2013年7月に始まった新基準にもとづく審査で、初めて「合格」となった川内原発の再稼働は刻々と近づいている。元首相らの訴えは、果たしてこの流れを変えることができるだろうか!? <取材・文・撮影/横田 一>
ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
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