ネット上で分断され、きちんと伝わらない「香山リカの思想」――山本一郎【香ばしい人々returns】

香山リカ

『「むくわれない生き方」を変える本』(朝日新聞出版)

 山本一郎です。最近は酒を控えている保守主義者です。 よろしくお願い申し上げます。

 ところで、先般のDHCシアターの件で、香山リカ女史が盛大に祭られ、騒ぎになっておりました。面白おかしく語られる部分もあり、その点では彼女のタレント性はいろんな意味ですごいものがあります。

●香山リカ氏乗っ取り被害か?ツイッターを休止(日刊スポーツ) http://www.nikkansports.com/entertainment/news/1469950.html

●香山リカ氏、乗っ取りは虚言か?番組を降板(日刊スポーツ)http://www.nikkansports.com/entertainment/news/1473568.html

●香山リカ氏降板 番組側説明全文(1)アカ乗っ取り示唆一転…冒頭5分45秒の熱弁(デイリースポーツ)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150508-00000096-dal-ent

 また、先般の小林よしのりさんとの対談の中で、いわゆる「アイヌ民族否定問題」について議論されており、過去には「9条の会」や「医療者の会」のようなリベラルというよりは極左活動を先導しているようなポジションにあることもあり、ネット上では大変な可燃性の物件を次々と建立され、実に貴重な言論資源となっております。

●小林よしのりVS香山リカ「アイヌ問題」で激突対論!(Yahoo!個人『創』編集長・篠田博之氏)http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20150209-00042922/

●香山リカ、「アイヌ否定問題」で小林よしのり氏に反論(日刊SPA!)http://nikkan-spa.jp/819659

●香山リカ、小林よしのり氏からの「3つの質問と1つの要望」に回答【アイヌ民族否定問題】(日刊SPA!)http://nikkan-spa.jp/828512

 彼女の著書も多数目を通しておる私としては、ネット上で分断された「香山リカの思想」というのがきちんと伝わっていないのだろうなあと思う部分があります。というのは、例えば『10代のうちに考えておくこと』(岩波ジュニア新書)、『しがみつかない生き方』(幻冬舎新書)は本としての書き方の濃淡は批判されることはあれども香山リカ女史本人のモノの考え方はよく理解できますし、確かにその考え方の根底がああであれば、限られた字数で好意を持っていない相手とやり取りをするTwitterにおいて、真意が伝わることなく揉めて炎上するのも分からないでもないだろうと思うわけです。

  また、『悪いのは私じゃない症候群』(ベスト新書)では、いろんな方面から現代人が受ける社会的ストレスを受容したり処理したり捌いたりできない善良な人たちが、自己防衛的にいろんな方面に心の中で責任を転嫁してしまう実情について、医療従事者である彼女なりの考えを綴っています。

 個人的には、香山リカという表向きの人格と違い、恐らく本人自身はひとつのことをかなりしっかりと論考し、一貫した価値観の中で一個一個回答を出している人ではあるのだろうと推測されます。

 ただ、新書であれネット上での書き方であれ、誤解を受けて気にしないかのような態度を取ったり、議論としてわざと雑な文言を投げて騒ぎが広がったところで「実は」というネタが多くて、言論人が話題性を確保するためのテクニックとしては見上げた根性である代わりに本来の香山リカ女史が持っているであろう論考能力については世間的に軽視されてしまうもったいなさもまた感じるわけです。

 今回、図らずも「創」5月6月号で、アダルトショップ界隈で以前摘発沙汰となって揉めた北原みのり女史との対談をされ、さらには香山リカ女史本人の連載でアイヌ利権批判がらみで彼女の身の回りにある有形無形のプレッシャーについて正直な心情を吐露しています。

 この手の対談者としての香山リカ女史というのは極めて穏当で、「えっ、これがネットで騒がれる香山リカなの」と思ってしまうぐらいの無難な対談に、自分の考えや気持ち、経験を添えて手堅くまとめています。

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北原「私自身だって、自分の主張をするのに『被害者』を必要としていた面があるのではないか、など、自分の問題として考えさせられています」

香山「そうですよね。ただ、堅いことを言うと北原さんのことは別として、社会的公正性を実現するために表現の自由を損ねるとか、何でもかんでもわいせつだと決めつけるのは、私にとって気持ちが悪い」
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 対談の超重要なところである、北原みのり女史が問題に向き合う本質部分を語られた直後に、香山リカ女史が「分からんでもないけどさすがにそれは筋違いだろ馬鹿」と突き放す姿勢があますところなく感じ取られ、読み手が納得するかしないかは別としても彼女なりの論理の筋の通り方はしているんですよね。

 次いで、同じく今号の『創』にある彼女の連載でも、ど真ん中の議論としてアイヌ議論はアイヌ人のためにやっているのではなく、私のためにやっている、寝た子を起こすような議論をするなといっても目の前に差別的な言論が溢れている状況で誰かがそれに対してNOと言わざるを得ないというようなお話をされています。それに読み手が賛同するかはともかく、香山リカ女史の立場やモノの考え方は一貫していて、あとはそれを見る人がどう思うかという受け手の問題なのだろうと感じるわけです。

 個人的には、差別感情を抜きにしてもいまの日本は中国や韓国の顔色に配慮しすぎてきたと思っているし、時代がこれだけ変わってきているのだから状況に合わせて政府の権力の横暴が万一あるときに歯止めをかけられるような憲法改正を求めるほうがいいんじゃないのと考えているので、香山リカ女史の意見自体にはさほど賛成しません。ただ、彼女が理性を発揮して書き連ねていること自体は、異なる意見として努めて理解しようと読み進めると論としてはちゃんとしていると思います。

 あとは、香山リカ女史にまつわる様々なやらかしやエピソード… …それも、今回のようにTwitter誤作動とか素材として最高に面白いわけで、そういう思想家として、ネット闘士として、さらにたまにやらかす一市民香山リカとしての振れ幅が大きいあたりが彼女の物件としての香ばしさを強からしめていると感じます。香山女史におかれましては、このような問題にへこたれることなく頑張って話題を振りまき続けて欲しいと願う次第であります。

山本一郎

山本一郎

<文/山本一郎>
やまもといちろう●1973年東京都出身。アルファブロガー。ネット業界やゲーム業界に精通し、投資業務とコンテンツ開発をメインにWebで数々の評論活動などを行う。イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社代表取締役。最近では子宝にも恵まれ、仕事と家庭を両立させつつも、さらにシミュレーションゲーム、プロ野球の応援などにも精を出す。


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