日本会議は靖国参拝の先に何を目指すのか?――シリーズ【草の根保守の蠢動 第8回・後編】

⇒前編「靖国神社と日本会議」

靖国神社国家護持法案」の失敗こそが日本会議の源流


 この失敗に懲りた神社本庁・靖国神社および日本遺族会は、法案提出運動をあきらめ、1976年に「英霊にこたえる会」を結成し、運動方針を「首相や閣僚による公式参拝実施」に切り替えていく。「英霊にこたえる会」は2015年現在も日本会議の有力構成メンバーであり、毎年毎年、閣僚の公式参拝を要請しつづけている(※2) 。

靖国神社 一方で、「靖国神社非宗教化」という自民党の提案に対する評価をめぐり共同歩調を維持できなくなった宗教界にも、再編の動きが生まれる。第5回で紹介した朝比奈宗源による各種宗教団体への呼びかけで「日本を守る会」が結成された背景には、「靖国神社国家護持法案」への対応をめぐる宗教界の分裂からの「再編」という目的があったのだ。

 日本会議の源流である「英霊にこたえる会」と「日本を守る会」が、靖国神社国家護持法案の失敗とその余波から生まれた組織であることを踏まえると、日本会議にとって「靖国神社問題」がいかに重要であるかが理解できよう。

 彼らにとって、靖国神社問題とは、組織存在理由の根幹に関わる問題なのだ。

 80年代以降、靖国神社問題には「A級戦犯合祀」という新たな要素が加わる。しかし組織の来歴や各種宗教団体に支えられる組織形態を考え合わせると、日本会議にとっては、A級戦犯合祀の是非という「歴史認識」より、いかにして宗教性を保ったまま靖国神社で慰霊行事を行うかという「政治と宗教」こそ重要なポイントなのではないか。

 日本会議にとって、靖国神社は「政治と宗教」の最前線である。

 と、考えれば、冒頭に紹介した、衛藤晟一や有村治子などの日本会議系議員たちがみせる靖国神社参拝への“情熱”も理解できよう。

 今年は戦後70年。この節目にあたり、日本会議は、おそらく組織の全力をかけて閣僚たちに公式参拝への圧力をかけてくるだろう。衛藤晟一をはじめとする日本会議系議員の春季例大祭への参拝は、日本会議にとって「負けられない戦い」の皮切りに思えてならないのだ。

※ 「靖国神社への首相公式参拝が問題視されたのは、A級戦犯合祀が理由だ。中韓の反発が原因だ」と主張する一部保守派がいるが、この種の主張は靖国神社問題の時系列を理解していない無根拠な主張と言わざるを得ない。ここで解説したように、「靖国神社国家護持法案」に関する紆余曲折の過程で政教一致問題が露見したことで、初めて首相の公式参拝が問題化されたのだ。いわば頑なに宗教性にこだわる靖国神社こそが問題に拍車をかけた側面がある。靖国神社問題で必ず引用される三木武夫首相による「私的参拝原則発言」が出されたのは1976年。靖国神社国家護持法案が最終廃案になった直後だ。「政治と宗教」が問題視される中、靖国神社に参拝する三木武夫からすれば「私的参拝」と言わざるを得ない状況に追い込まれていたとも言えよう。ともすると靖国神社問題はこのように単純な時系列を無視した思い込みによる議論が散見される。戦没者の慰霊という国家の重大事を議論するには、基本事項をしっかりと踏まえた冷静な議論が望まれるのではないだろうか。

[参照文献]
猪野健治, 1979, 「神道系中小教団の”新民族派”宣言」『現代の眼』20(11):150-159.
大沢 広嗣, 2012, 「宗教法人とはなにか」 高橋典史 塚田穂高 岡本亮輔編 『宗教と社会のフロンティア』 勁草書房, 66-72.
ルオフ, K. 2003, 『国民の天皇』 共同通信社.
藤本龍児・塚田穂高, 2012, 「政治と宗教 ー現代日本の政教問題」高橋典史 塚田穂高 岡本亮輔編 『宗教と社会のフロンティア』 勁草書房, 197-218.

<文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>


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