ロンドンに誕生した「イスラム教徒市長」が投じた一石

35歳を境に増える「移民への壁」

 西ロンドン出身のある中年男性は、自らの育った町がすっかり変貌してしまったと嘆く。「通りにはゴミが溢れていて、まるでどこか別の国みたいだ。暴力事件もここ数年で増えているし、移民政策が成功したとは思えない。」カーン氏が新市長に選ばれたことについては、「これほど町に移民が多いのだから、彼らが同じ移民に投票すればその候補が勝つのも当然だよ」と言う。  多様化の進むロンドンとはいえ、彼のような意見は中高年層において決して珍しいものではない。2014年に行われた調査(*1)では、その地域の多様性(ここでは「潜在的な人種間交流の機会」を基準としている)を考慮に入れると、ロンドンの白人人口の多文化との接触は英国の他の地域の平均と比較して大幅に少ないという結果が出ている。つまり、ロンドンの人種的多様性に比較すると、実質的な人種間の壁はロンドンでの方が他の地域よりも大きいというのだ。また同じ調査で、人種間の壁は35歳以上の年代において顕著であるという結果も出ている。  また、反移民の立場でなくとも、カーン市長に懐疑的な人々もいる。ロンドン中心部に住むある中年女性は、「カーン氏の政策は移民や低所得層にばかり焦点を当てていて、私たちのようにロンドン中心部に自分たちの稼ぎで住んでいるような人々だって家賃上昇には困っているのに、こちらには恩恵がなさそうに思える」という。カーン氏の庶民派アピールは、中流の中でも比較的高所得層で、移民でもない市民にとってはやや疎外感を感じさせるようだ。
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カーン氏に寄せられる「融和」への期待
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