「“日本のイチゴは農薬・肥料まみれ”の現状を変えたい」30代農家の挑戦

イチゴハウスで作業する野中夫妻

 甘酸っぱい香りと愛らしい見た目から人気の高いイチゴ。だがその素顔は、数ある農作物のなかでも農薬の使用頻度が高く、清新なイメージとはかけ離れた「不健康」そのものなのは既報の通りだ。  そんな中、「不可能」と言われ続けてきたイチゴの無農薬・無肥料栽培(自然栽培)に挑む30代の夫婦がいる。愛知県豊田市の自然栽培農家、野中慎吾・浩美さんだ。8シーズン目の今季、苗からすべて無肥料・無農薬でイチゴを大規模栽培するめどがついたという。

手ごろな値段で、安心・安全なイチゴを誰もが買えるように

 採りたての、艶のあるイチゴを1粒ごちそうになった。赤い実を一口かじると、えぐ味のないすっきりとした甘みが口の中に広がる。 「普通のイチゴは暖かくなると傷みやすいんです。でも、うちのイチゴは強い。赤く色づいてもまったく傷んでこないんです。生命力が強くて元気なんですね」  野中さん自慢のイチゴは、果肉がぎっしり詰まっていた。 「子どもたちに人気があって、一度食べた子どもがお母さんにねだって買っていくようです。栽培を始めたころは、スーパーの店頭に立ってお客さんに売り込みました。値段で選ぶお客さんが多くて苦戦続きでしたが、地元で作られた地産地消のイチゴだと知って、興味を持ってくれる人が増えたんです」  徐々にそのイチゴはファンを増やしていった。アトピーなど化学物質過敏症の子どもを持つ親や、妊娠中の母親たちが好んで買っていくようになったという。野中さん自身も、最近まで揚げ油でアレルギー症状を覚え、食事の制約を強いられていた。そのため、「身体の弱い子どもたちが安心して食べられるイチゴをなんとしても作りたい」という思いを人一倍抱いていた。  野中夫妻の作るイチゴのすごさは「無肥料・無農薬で味が良い」というだけではない。 「希少な高級品」としてではなく、スーパーで売っているほかのイチゴと変わらない買いやすい価格(時期によって変動)で、「安定供給」できているところにある。 「お金に余裕がある人だけでなく、誰もが安心・安全なイチゴを買えるようにしたいと思っています」(野中さん)
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有機栽培は、有機物があり余っている世界でしか通用しない
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希望のイチゴ

難題に挑む農家・野中慎吾の、試行錯誤の日々を描く

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