リポート「改憲1万人集会」/生長の家原理主義者の代表と不自然な議員席――シリーズ【草の根保守の蠢動 第24回】

前々章⇒『「国歌斉唱」と「リベラル揶揄」だけで支えられる一体感』 前章⇒語られなかった「9条改正」 

やはり顔を出していた「生長の家原理主義ネットワーク」

 「日本政策研究センター」代表の伊藤哲夫(ⅱ)が、かつて「生長の家」の教団職員であったことは、この連載でも明らかにしてきた。また、「日本会議」の推進母体である「日本青年協議会」の淵源も「生長の家学生運動」であることを、この連載では明らかにしてきた。(連載21回の関係図参照)  「日本政策研究センター」の改憲プランを下敷きにした安倍の発言と、櫻井発言が、「日本会議」の推進母体たる「日本青年協議会」が取り仕切るこの大会で、偶然の一致とはいえぬ符合を見せたことは、やはり、この運動全体を、「生長の家学生運動」ネットワークが下支えしていると、考えざるをえまい。  さらに、不思議なことがある。
中島省治

生長の家原理主義である「谷口雅春先生を学ぶ会」代表であり同会の機関紙編集人である中島省治(左)

 中島省治だ!中島省治が壇上に座っている!連載22回で稲田朋美を取り上た際に、「生長の家原理主義ネットワーク」の機関誌編集人として登場した、中島省治が座っているではいか!!  「日本青年協議会」が、元来は生長の家学生運動から生まれた団体である事は、知る人ぞ知る(そして知っている人はそれなりに多数いる)話だった。だが、1983年10月の「生長の家」教団の政治運動脱退宣言以降、日青協は「生長の家」色を隠し続けてきたし、路線変更する「宗教法人生長の家」と対立することさえ厭わなかった。また、「宗教法人生長の家」の方でも、「日本会議」系のイベントに一切近づくことはなかった。あらゆる意味で、「宗教法人生長の家」と今の日本会議界隈の運動の間には関係がない。  連載22回で解説したように、中島は、「宗教法人生長の家」に反旗をひるがえす、「生長の家原理主義者」たちの機関誌の編集人を務める。「原理主義運動」の顔と言ってもいい人物だ。また、日本青年協議会の人々が、中島たちが主催するイベントにゲストとして参加していることも、筆者は把握している。  だが中島は、こうした表舞台に出る人物ではなかった。あくまでも、「原理主義運動の顔」、「宗教活動の顔」が彼の役割だ。表舞台、ましてや政治運動の場は、彼の来る場所ではないという線引きがかつてはあった。「生長の家原理主義運動」と「日本会議」の関係は、「公然の秘密」とはいえ、ひた隠しに隠されてきたはずだ。
中島省治

アパホテルのCMイメージ通りの装いの元谷芙美子の後ろに座る中島省治

 しかし、中島は、厳然として座っている。「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の役員名簿に名前さえ乗っていない彼が、アパの社長夫妻の後ろに座っている。これは一体どうしたことだろう……。  考えてみれば、舞台上手に設けられた国会議員席の序列も不自然であった。
衛藤晟一

前文科大臣である下村博文より上座に座る衛藤晟一(左)

 舞台中央に設けられた演台側を上座とすると、最前列に座った国会議員は、上座から 古屋圭司(自民党) 松原仁(民主党) 藤巻健史(おおさか維新) 中山恭子(次世代の党) 衛藤晟一(自民党) 下村博文(自民党) 中曽根弘文(自民党) 山谷えり子(自民党) 新藤義孝(自民党) という序列になる。  古屋から中山恭子までの序列はわかる。会派議席数順だ。ここまでは、各政党代表として座っているのだろう。古屋が自民党を代表するのも自然なことだ。彼は、安倍晋三より当選回数は多いし閣僚経験も豊富。何より、成蹊大の先輩として後輩の安倍晋三と極めて親密だ。ここまではわかる。だが各党代表以降の「一般議員」の序列が不自然極まる。なぜ衛藤晟一が筆頭なのだろう?下村博文以降は、ほぼ閣僚経験者ばかり。一方の衛藤晟一は首相補佐官ではあるものの、閣僚経験がない。「日本会議議員懇談会」等の議連での席次としても、高位の議員は他にもいるし、第二列以降に座っている高位の議員もいる。  衛藤晟一を「一般議員筆頭」と扱う理由が見当たらぬのだ。もしあるとすれば、衛藤晟一が「日本青年協議会」の副代表であったという点しか考えられぬではないか  と、するとだ ・「美しい日本の憲法をつくる国民の会」共同代表・櫻井よしこによって今回初めて発表された、改憲の方向性は「日本政策研究センター」の改憲プランそのものであること ・「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の役員名簿に名前がないにもかかわらず、「生長の家原理主義運動」の顔・中島省治が壇上に座っていること ・衛藤晟一の序列が一般議員筆頭である理由は、衛藤晟一が「日本青年協議会」の副代表であったという点しか考えられぬこと と、この大会の特異点を列挙してみれば、否が応でも「生長の家学生運動」に淵源を持つ「一群の人々」の影響を指摘せざるを得ないではないか。  今回の、「今こそ憲法改正を!武道館一万人大会」は、前回振り返ったように崇教真光、霊友会などの各種教団や遺族会などの各種団体の動員による、「改憲派一万人の決起集会」であったことは確かだ。  しかし、筆者にはこの大会が、「『一群の人々』の決起集会」に思えてならない。  と、同時に、この国の将来は、大会を終始満足気に眺めていた椛島有三の手によって、左右されるような気がしてならないのだ。

壇上の最奥に座り、終始満足気に大会を眺めていた椛島有三

(ⅱ)伊藤哲夫もこの大会にも参加している。しかし退出するのは極めて早かった。開始1時間の段階で会場を後にしている。おそらく、櫻井の挨拶を聞いて満足したのだろう。 <取材・文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie) 撮影/我妻慶一 菅野完>
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