東芝粉飾決算問題、失われたふたつの柱

東芝01 東芝の粉飾決算問題、1500億円以上の金額となる巨額の粉飾となった今回の騒動であるが、既存の報道ではやはり福島原発事故から始まる原発事業の不振に触れた報道が多いようだ。  しかし、原発事業の不振だけが巨額粉飾の発端だったのだろうか? 東芝の業績悪化の経緯を紐解くと、別の要因も見えてくる。

二つの柱

 原発事業は、2006年頃に東芝が主軸と捉えていたマーケットだ。メディアでの報道の通り、この原発事業は福島第一原発事故で大きな痛手を被ることとなるわけだが、実は東芝にはもう一つ、主軸と考えるマーケットがあった。それが、半導体事業である。  当時、東芝のNANDメモリ(フラッシュメモリ)分野とイメージセンサー分野は隆盛を極めており、非常に高い業績をあげていた。90年代初頭から培った技術は、急激に伸びるフラッシュメモリ市場に非常にマッチングしており、向かうところ敵なしの状態であった。 ⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=55866
東芝02

【2015年の東芝部門別売上割合】原発・電子デバイスが売上の半分を占めているのがわかる。

粉飾の起爆剤となった半導体事業の失敗

 先述の通り、2006年段階での東芝の半導体主力商品はNAND型メモリとイメージセンサーであり、これらは高い業績をあげていた。また、原発事業では、米国のプラントメーカー買収など、精力的に事業の拡大を推し進めていた。しかし、2006年のリーマン・ショックですべての状況が変わる。主軸と捉えていた上記の2つの事業だけでなく、家電も含めたほとんどの事業で業績が悪化、結果として2500億円の赤字を出してしまう。  だが、そんな状況の中でも東芝は切り札を持っていた。NECエレクトロニクスと東芝の半導体事業を合併するという計画が水面下で進行していたのだ。  これは同じIBM方式の生産形式をとるNECと合併し、経営合理化を図るというものであり、両者にとって非常にメリットの高い計画であると思われた。当時、その合併に関わった知り合いのNEC技術者も「合併は秒読み段階だった」と言っている。  しかし、主導権を東芝に奪われることを忌諱したNEC側の意向により、その計画は突如中止へと追い込まれる。結果、東芝は単独で半導体事業を続けることとなるのだが、合理化を図れなかったNANDメモリ事業、イメージセンサー事業ともに業績は急激に悪化。柱の一つを失った東芝は2009年から粉飾を開始することとなる。  この後、福島原発事故を契機に、残された最後の柱であった原発事業も不振に。そして今年、粉飾決算が世間を騒がせることになったのは、誰もが知るところだろう。 ⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=55867
東芝03

【2006年~2014年の電子デバイス部門売上高】オレンジ色の部分から粉飾が行われている。

キーポイントに欠ける事業体質

 半導体事業の迷走、そして原発事業の不振、主力としていた事業が揃いも揃って不採算部門へ転落した東芝であるが、粉飾決算の他に、有効な対策を打つことができなかったのだろうか。  ひとつの事業に固執しつづけた結果転落したシャープ、リスクヘッジに失敗し、解決策を見出せず不正に走った東芝。ぱっと見、まったく違う体質を持つ企業のようにも見えるが、どちらの企業にも“対応の遅さ”が顕著に見て取れる。  かつて電子立国と言われ、スピード感が売りだったはずの日本企業だが、組織が大きくなるにつれ、フットワークの悪さが際立っている。この体質を脱却できない限り、日本の企業に明日はないのかもしれない。<文・図版/村野裕哉> 【村野裕哉】 PowerMacとWindows98で育った平成生まれのガジェッター。趣味の旅客機を眺めつつHTML/CSS/Javaなどを中途半端にかじって育つ。ブログなどでレビュー記事を執筆中。twitter : @anaji_murano
ハッシュタグ
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会