ドローン少年事件で語られる「中二病の夢」と「イノベーションの夢」

 今さらだけどドローンが話題だ。話題の焦点はノエル君(15歳)に集中しまくったわけだが、これも間もなく忘れ去られる程度のネタだろう。○○○に刃物ということわざがあるように、中二病に先端技術を与えれば、この程度の不始末をやらかす子供が出てくることは普通にあり得るわけで、昔々、11歳でスプーン曲げを披露して時代の寵児に駆けあがるいやいなやトリックが暴かれて超能力ブームそのものを下火にさせた人物と比べたら、お騒がせ少年界の人材も小粒化したなあ、ぐらいの距離感でスルーしたいと思う。

写真はイメージです。

 ただ、元超能力少年のときも彼を利用しておいしい思いをした大人がいたように、ノエル君のオイタの場合も無責任な大人らの支援があったというニュースには病みを感じる。その病み方はネットライブ配信という業界構造に由来するものであるようだ。  この問題については、自らネットライブ配信に関わる方が、<15歳の少年は高価なドローンを使っていたが、どこから収入を得ていたのだろうか>と可能性を一つずつ検討し、<彼の常識のなさと、周りのリスナーからのあおりが、過激な配信を繰り返す原因となっている>と冷静に指摘している。ネット界は損得勘定だけではないエネルギーでも動いており、そこにおけるルールは日々更新が必要だという意味で、この「YOMIURI ONLINE」の記事 は一読に値する。  それに対してというか、ご本人には何の他意もないのだろうが、脳科学者の茂木健一郎氏が脊髄反射的にしたツイートを目にしたときは、口からコーヒーを噴きそうになった。曰く、<日本のマスコミはアンシャンレジーム側>であり、<イノベーションの精神、ゼロだよね>。先生、だいぶテンションが変です、カタカナ語の乱打が恥ずかしいです、と申し上げたい。けれども先生は別にめちゃくちゃな暴論を吐いているわけではない。  そう、このネタの論点はまさしくイノベーションなのである。少年のオイタ騒動以前から、このドローンという無人航空機はいわゆるイノベーティブ・プロダクトとして注目されていた。先生はその勢いを阻むような奴らは許さん、という義憤からカタカナ乱打をせずにはいられなかったのだ。  同様のスタンスを取る人はベンチャー界隈をはじめ方々にいる。近年、未来の総理オーラを放つことに熱心な様子の小泉進次郎政務官も、幕張メッセで開催された第1回国際ドローン展にて、こんな発言をしている。 <日本はこれから人口減少と少子化で、イノベーションしなければ、イノベーションを次々に起こさなければ、社会の持続的発展はない。若い人の自由な発想は決して阻害してはいけない>  やはりこの無人航空機におけるキーワードは、「イノベーション」なのだ。人的パワーが落ちていくこの国が生き残るには、生産性の向上をひたすらに追究しなければならない。従来のまあまあの品質で安い製品を大量生産して輸出しまくるといった産業の在り方自体を過去のものにするような、破壊的で革新的な先端技術を我が国もぜひぜひ生み出さなきゃいけないんですよ、みなさん! と、そういう議論だ。  私はその議論自体にことさら異をとなえる者ではない。でも、そう鼻息荒く言われると、ふと白けてしまうのも事実だ。ドローンはたしかにイノベーティブなプロダクトなのだろう。でも、それが我々の生活でどう活用されるのだろうか。 【後編】に続く⇒https://hbol.jp/41909 <文/オバタカズユキ 撮影/Nobuyuki Hayashi> おばた・かずゆき/フリーライター、コラムニスト。1964年東京都生まれ。大学卒業後、一瞬の出版社勤務を経て、1989年より文筆業に。著書に『大学図鑑!』(ダイヤモンド社、監修)、『何のために働くか』(幻冬舎文庫)、『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(朝日新聞出版)などがある。裏方として制作に携わった本には『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)、『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)などがある。
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会