荒れる地方議会――無関心が生む地方議会の「闇」

photo by 雪融(CC BY-SA 3.0)

 大阪市の「都構想住民投票」選挙結果を拙速に分析することの危険性を指摘した『曖昧な根拠で住民投票の結果を「分析」する愚』は、おかげさまで、大きな反響を頂戴した。  筆者があの小文で伝えたかったことは、断片的で曖昧な情報にもとづき、特定の属性を持つ誰かを「既得権益」や「利害関係者」などと決めつけ、それを叩く姿を見せることで自分の正当性を保持しようとする考え方の浅ましさだ。  いわゆる「職員厚遇問題」が発覚したのは関市長時代の2003年。これを起点とすると、かれこれ10年以上、大阪では「改革」が叫ばれ続けてきた。この間、「あいつが既得権益だ!」「あいつを倒せ!」の掛け声ばかりが大きくなるにつれ、斬新的な改革案よりも、過激かつ性急なプランだけが耳目を集めるようになってしまった。その最終到達点が、「都構想住民投票」だろう。そしてその結果、大阪は、賛成/反対/棄権(=無関心)の3つに分断されたのだ。  大阪に改革は必要ない。というのではない。「職員厚遇問題」にせよ、飛鳥会事件に代表される外部団体との癒着にせよ、大阪が抱える問題は克服されねばならない。しかし問題はその進め方だ。「こんなもの叩き潰してやる!」と性急な答えに飛びつきたくなる気持ちは理解できなくはない。だが、本来は、公正で開かれた議論の積み重ねで問題を解決してゆくべきなのだ。迂遠に思えるかもしれない。生ぬるく感じるかもしれない。しかしそれが、誰かを叩く姿を見せることで自分の正当性を保持しようとする浅ましい考え方から距離を置く、一番堅実な方法だ。そしてこの「公正で開かれた議論の積み重ね」こそが民主主義の根幹だ。  そして、「公正で開かれた議論の積み重ね」が蔑ろにされているのは、なにも、大阪だけではない。むしろ、「都構想」騒ぎで大阪が目立つだけであって、各地の地方自治体がひとしく抱える問題とも言える。そして、この傾向は東京でこそ顕著なのだ。 ⇒その2:東京各地で相次ぐ「言論統制議会」(https://hbol.jp/41305)に続く <文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている
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