正しい「金の借り方/貸し方」の教則本

 仕事ができる・できないを、仕事の成果とは関係ないことで判断されることがある。「お金とのつきあいかた」もそのひとつだ。ビジネスパーソンにとって望ましいお金の使い方とはどのようなものなのか。 お金 今回は江戸の裏金融界を描いた時代小説『いかずち切り』(山本一力)から「金の貸し借り」にまつわる名ゼリフを紹介したい。本作は、“いかずちの弥蔵”率いる借金の取り立て屋と、詐欺師の一味が丁々発止で渡り合うという物語だ。

「借りるときのえびす顔、返すときの閻魔顔」

 本作には滞納者に“嫌がらせのプロ”が登場する。滞納者に罵詈雑言を浴びせ、屁を放ち、小便を垂れ流す。無数の借金取立てに関わる中で到達した真理が、このセリフだ。  ひとは借金をするときはニコニコ愛想笑いを浮かべる。だが、“カネがないから借りた金”はそう簡単に返せない。返済のアテもないまま、泣き落としに開き直り。やがて地獄の閻魔様顔負けの険しい顔つきに変わる。借金を申し込まれたら、いずれ目にするであろう変貌をふまえた上で、貸すのか貸さないのかを決断したい。

「ひとに嫌われるよりは、好かれたいと思うのが人情だが、嫌われてこその稼業はある」

 こちらも同じく、前述の“嫌がらせのプロ”のセリフだ。困り果てた相手に「何でもするから勘弁してください」と言わせる仕事はまさに、嫌われてナンボ。しかし、仕事を問わず、嫌われることを覚悟しなければいけない場面はあるものだ。  たとえば、親しくつきあっている相手から、こっそり予算を融通してもらえるよう頼まれた場合。むげに断れば角が立つし、恨まれるかもしれない。勇気をもって突き放すことも必要だ。「好かれたい」という思いが強すぎると、判断を鈍らせることを肝に銘じたい。

「入り用な祝儀は惜しむな。渡すなら、相手が息を呑むほどのカネを手渡してやれ」

 相手に心理的な“貸し”を作ると考えると、祝儀も広義で言えば、「貸し借り」の一種と言える。本作の主人公・弥蔵は「祝儀を惜しむな」と繰り返し、部下に指示する。  惜しむ態度は相手にも伝わる。ありがたみも薄れるし、下手をすれば安く見積もられたと反感を買うことになる。渡す側の心がまえひとつで、祝儀は生きたお金にも、死に金にもなるのである。  ちなみに、本書には「色とカネの両方に強欲な女は、カネ次第でどうとでも転がる」という金言も登場する。カネで釣り上げた女は、カネで裏切る。気づけばケツの毛までむしられ、すっからかんとならないよう、財布とパンツのヒモをしっかり締めておきたい。 <文/島影真奈美> ―【仕事に効く時代小説】『いかずち切り』(山本一力)― <プロフィール> しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。
いかずち切り

迫力と興奮のノンストップ傑作時代小説

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