吉祥寺よりも知りたい街!? 中央線のマイナースポット「西荻窪」の摩訶不思議な魅力

柳小路

駅南口前の一画に広がる戦後から続く飲み屋街「柳小路」には、遠方から足繁く通うコアなファンも多く、毎月第3日曜に開催される「西荻昼市」は、老若男女を問わず多くの酔客で賑わう好評のイベントとなっている。写真は西荻案内所。左から奥秋圭さん、亜矢さんご夫婦。手には、現在制作中の「西荻観光案内MAP 2015」(4月末頃より同店にて配布予定)が

「住みたい街ランキング」の常連とも言える吉祥寺や横浜、自由ヶ丘、恵比寿といった比較的規模の大きい街だけでなく、ここ数年の「せんべろ(予算1000円でベロベロになれる飲み屋さん)ブーム」の火付け役であり、今や劇映画のメインテーマに据えられるほどの“大ブレーク”を果たしている赤羽や、武蔵小山、練馬、蒲田……など、これまでニッチな人気を博していたエリアも脚光を浴びる機会が多くなったが、なかでも、ここ数年注目が集まっている知る人ぞ知る街が、JR中央線沿線、荻窪駅と吉祥寺駅の間にひっそりと佇む西荻窪駅界隈だ。 ‘00年代初頭から緩やかに続く「第2次レトロ・ブーム(昭和懐古趣味)」の影響もあり長らく“アンティークの街”として知られていたが、最近では、食べログ通をも唸らせるグルメな飲食店をはじめ、乙女ゴコロをくすぐる個性的なカフェや雑貨店の出店ラッシュが続き、20~30代の女性をターゲットとした情報誌『Hanako』3月12日号も、「日本一住みたい街 吉祥寺vs日本一知りたい街、西荻窪」と冠した特集記事を掲載。この小さいながらも摩訶不思議な街の魅力を余すとこなく紹介しているほどだ。 「正直、人気の街としては王者の貫録すら漂う吉祥寺の向こうを張る存在として西荻窪がピックアップされたのは意外でした。というのも、この街は吉祥寺とは規模も毛色もまったく異なるので、このようなかたちで比較検討するのは多少無理があるような気がして……。ただ、いずれにせよ我が町、西荻窪がこうして話題になるのは、やっぱり嬉しいですけどね」  こう話すのは、西荻窪駅北口から徒歩2分、10畳にも満たない小ぢんまりとした路地裏の一画で「西荻案内所」というユニークな看板を掲げる奥秋圭さんだ。イラストレーター兼、編集者兼、写真家とさまざまな顔を持つ奥秋さんは、現在、妻・亜矢さんと二人三脚で案内所を運営。日々、地域密着型の情報発信や、オリジナリティ溢れる各種イベントなどを企画している。  西荻窪に精通し、街の動向を間近で体感している2人に、西荻窪の魅力と人気の理由、そして間違いなく西荻窪人気に一役買っているであろう「西荻案内所」の活動について話を聞いた。 「西荻(地元の人は「西荻」と省略して呼ぶ)の魅力って、もちろん、飲食店や雑貨屋さんとかの充実度もあるんだけど、それ以上に人と人との密接な繋がりに拠るところが大きいと思うんです。都会でありながらもどこか田舎っぽいっていうか、良くも悪くもみんなお節介焼きというか……。なので、噂なんかもすぐに広まっちゃうし、いきなり知らない人に『この前のアレ、大丈夫だった?』とか話しかけられたりとか(笑)。そういうのって、やっぱり大きい街ではなかなか味わえない醍醐味だと思うし、こういう点が近年の西荻ブームに繋がっているのかなとも感じますね」(亜矢さん)  今のところ助成金などを一切もらわず、店舗家賃を含む運営費のすべては持ち出し。つまり、完全に自腹を切って案内所を運営する奥秋さん夫妻は、自らを“案内所界のインディーズ”と言って憚らない。 「そもそも、ナゼこの案内所を始めたかというと、いわゆる雑誌などで紹介される街案内モノって、結局、グルメ情報やおしゃれスポットばかりがフォーカスされて、例えばメチャメチャ新鮮な野菜を売ってる渋い八百屋さんとかが紹介されることって、まずないじゃないですか。以前から、そういう風潮に違和感を感じる部分があって、街の魅力ってもっとトータルなものだよ!ってことを提示したいという思いがあったからなんです。その意味で、普段はあまりフィーチャーされないような人・場所・モノを、何にもとらわれず自由に採り上げていくことが、この案内所のコンセプトと言えるのかなと思ってます」(圭さん)  その思いを裏打ちするかのように、他所では類を見ない斬新な企画を次々と発表。観光地ではない、いわゆる“普通の場所”を巡る観光ツアー「西荻観光案内」をはじめ、なかには“西荻在住の魅力的なオジさんに会いに行くツアー”(!?)など、聞いただけで思わず笑みがこぼれるような企画も。 「事前にステキなオジさんにアポを取った上で、当日は各所に点在するオジさんに会いに行って、そこでご自身の話をして頂くというツアーです。話の内容は基本、その人の人生にまつわるエトセトラ的なものなんですが、例えば鮮魚店を営んでいるオジさんであれば、創業当時の街並みや最近の景気についてだったりと各人各様なんだけど、とにかく聞いていて面白い!(笑)。しかも、その話を通じて、日常では意識しない街の“別の顔”みたいなものも感じることができて、参加者の方々はもちろん、個人的にも大満足のツアーでした」(亜矢さん)  そんな数あるユニークな企画の中でも、もっとも話題になったのが「西荻婚」だったという。 「西荻窪の街なかで結婚式を挙げて、街全体がお祝いムードになったら面白そう、っていう単純な発想から始まったんですが、偶然にも友人のカップルがこの企画に賛同してくれて。事前に、管轄の警察署や西荻窪駅からイベント開催の許可を貰ったんですが、その際に『告知は一切ナシで』と指示を受けていたので、残念ながらチラシを張ったりとかはできなかったんです。それでも、当日は瞬く間に黒山の人だかりができて、花婿花嫁が乗る人力車の周りに300人ぐらいの聴衆が押し寄せる大騒ぎになっちゃって(笑)。駅前の交番の方や駅職員さんなんかにも、「迷惑っちゃ迷惑だけど……ま、いっか」的な穏やかな対応をして頂いて。本当に感謝しております(笑)」(圭さん)  年末には、JR中央線の線路の北と南にチーム分けして自慢のノドを競い合う「西荻南北歌合戦」などの企画も検討中というが、「まだまだ、やりたいことはたくさんあるけど、まあ、のんびりやります」と笑顔で話す2人の、このほどよく肩の力の抜けた脱力感もまた西荻的というべきか。  ユニークな人材と発想、そして何よりも街を愛する人々の熱い情熱が、西荻窪という街の人気の根底にあることは間違いないと言えそうだ。 <取材・文・撮影/藤原哲平> 【西荻案内所】 【住所】東京都杉並区西荻北3-18-10 【営業時間】13~18時(木曜定休) 【電話番号】03-6454-7663 【HP】http://nishiogi.in
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会